2015 Fiscal Year Annual Research Report
深層海水の環境復元に関する新規プロキシとしての宝石サンゴ骨格中微量元素の研究
Project/Area Number |
14J03797
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 健太郎 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 深層海水 / 宝石サンゴ / 炭酸カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
深海に生息する宝石サンゴ骨格を過去の環境復元に利用できるか検討することを目的とし、(1)宝石サンゴ骨格の化学分析と(2)炭酸カルシウムの無機合成実験を行った。 (1) 採用2年目はハワイ周辺の深海から採取された試料の化学分析を主に行った。採取には遠隔無人探査機が利用されたため、正確な緯度経度と水深が記録されている。宝石サンゴ骨軸の成長軸に対して垂直に切断し、Electron Probe Micro Analyzer (EPMA)を使って切断面のマグネシウムや硫黄などの分布を観察した。その結果、従来報告されていたマグネシウムと硫黄の年輪状の分布パターンに加えて、マグネシウムが濃集した約100 マイクロメートルのトゲ状構造が骨軸の中心付近に観察された。マグネシウム濃度が高い構造は骨片で、成長過程で骨片の一部が骨軸に沈着すると示唆される。骨軸と骨片は形成の過程が異なるため、微量元素の濃度差は生育環境ではなく生物的な影響に起因すると考えられる。これらの結果は、宝石サンゴを古環境復元に利用する際は骨片を避けた分析が必要なことを見出した点で意義がある。 EPMAで骨片の有無を確認した後、NanoSIMSを使って宝石サンゴの微量元素を高解像度で分析した。年輪と関連した変動を示すマグネシウムと硫黄に加えてフッ素、塩素、ホウ素などを約5マイクロメートル間隔で分析した。その結果、フッ素と塩素の濃度も周期的な変動を示すことが明らかとなり、これらの元素濃度は環境変化を記録している可能性があり重要性が高い。 (2)無機合成実験を行い、炭酸カルシウムを合成した。宝石サンゴ骨軸は厚い生体組織に覆われていることから、化学組成や物理的性質(粘性など)が海水とは大きく異なる母液中で骨軸が形成されているかもしれない。今後はこれまでと異なる合成方法も検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用2年目は宝石サンゴ骨格の化学分析をこれまでより多角的に行い、新規的な知見を集積できた。また、採取地点の記録がある試料を入手できたため、微量元素の分析結果と生育環境の比較をより精密に行うことが可能となった。2年目の途中までに得られた研究成果を国際学会で発表した。 年輪と対応しない元素濃度の濃淡が観測され、骨軸への骨片の吸着が示唆された。生育時、宝石サンゴの骨軸はポリプなどを含む生体組織に覆われており、生体組織には数百マイクロメートル程度の骨片と呼ばれる炭酸カルシウムが含まれる。当初予期していなかった結果だが、一部の宝石サンゴでは骨軸の先端に骨片が沈着すると示唆され、宝石サンゴの化学分析の結果は古環境復元に利用できるとともに、宝石サンゴの骨格形成メカニズムに関する研究にも応用できる可能性が見出された。また、2年目は微量元素濃度の分析に加えて、宝石サンゴ骨軸の炭素・酸素安定同位体比の測定も試験的に行い、古環境復元に利用できるか検討した。 一方、宝石サンゴ骨格の化学分析と並行して炭酸カルシウムの無機合成実験を試験的に行った。高純度の炭酸カルシウムが懸濁した水溶液中二酸化炭素ガスを加えてpHを下げて炭酸カルシウムを溶解したのち、二酸化炭素ガスを脱ガスさせてpHを上げ炭酸カルシウムを再沈殿させる方法を習得できた。
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Strategy for Future Research Activity |
採用3年目もハワイから採取された試料の分析を行う。NanoSIMSやEPMAなどを利用して高分解能の測定を引き続き行う。さらに2年目は試験的に骨軸の炭素・酸素安定同位体比を試験的に分析し、その結果から同位体比は骨格の成長速度やマグネシウム濃度などに規定される可能性が示唆された。3年目も炭素・酸素安定同位体比を分析し宝石サンゴの骨軸の形成過程について知見を得るとともに、古環境復元の指標となりうるか検討する。 炭酸カルシウム骨格中のホウ素同位体比はその生物が生息した海水のpHと相関すると考えられてきた。一方、近年の研究ではホウ素同位体比は直接海水のpHを反映せず、生物の代謝の影響も受けると指摘されている。宝石サンゴ骨格のホウ素同位体比はまだほとんど測定されていない。3年目は宝石サンゴのホウ素同位体比の測定に挑戦し、ホウ素同位体比が海水のpHを反映するか検証する。 さらに3年目は寒天や水ガラスなど粘性が高いゲル中で、ハロゲン、カルシウム、溶存無機炭素を含む母液から炭酸カルシウムを合成する。母液の組成や合成温度を変えながら炭酸カルシウムを合成し、炭酸カルシウムのハロゲン元素の分布や濃度を観測する。合成した炭酸カルシウムの組成と母液の組成や合成時の水温と比較する。その結果から宝石サンゴ骨軸の元素組成と海水環境の関係について考察する。
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Research Products
(1 results)