2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J03830
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大竹 昌巳 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 契丹語 / 契丹文字 / 性・数の一致 / 文法的性 / 長母音 / 母音表記 / 比較言語学 / モンゴル語史 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は契丹語の文法現象に関する研究および契丹語とその親縁言語との音対応に関する研究を中心に研究課題を遂行した。 契丹語には性や数の一致 (agreement) が存在することが先行研究によって知られるが,その具体的な様相については一致した見解がない。本研究では,契丹語には人間以外の名詞類にも性 (gender) が存在すること,性の一致は厳格に行われ,混乱は見られないことを論証した。この成果は来年度,学会で口頭発表することが決定している。 また,契丹語と,系統関係を有するモンゴル語との間の母音の長さに関する音対応を調査し,契丹語の長母音は原則としてモンゴル語の二次的長母音と対応すること,一部の契丹語の長母音はモンゴル祖語の一次的長母音を保存している可能性があることを契丹小字の表記の特徴および比較言語学的観点から明らかにした。この成果は査読紙に投稿中である。 そのほか,契丹小字文献中の漢字音表記が,従来から提唱されている中古漢語の唇化軟口蓋音韻尾仮説に合致する形式を示すことを明らかにする論文を発表した。また,従来正しく理解されていなかった契丹語のきょうだい名称を解釈し直すことにより,当該言語のきょうだい名称体系を復元する論文を発表した。 これらの成果によって,契丹語の体系やモンゴル語史における位置づけの一端を明らかにすることができた。 なお,契丹語文献は石刻資料を主とするが,粗悪な拓本画像しか公刊されていないものも多い。8月には中国遼寧省の遼寧省博物館,阜新蒙古族自治県博物館,阜新市博物館,北票博物館および内蒙古自治区の敖漢旗博物館,遼上京博物館,契丹博物館,巴林右旗博物館,赤峰市博物館等を訪問して所蔵資料を実見・調査することにより,より精確な資料に基づいて研究を行う基礎を据えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
契丹小字文献に基づく契丹語の音韻体系・音変化に関する研究は順調に進展している。それに関連して契丹小字の文字論的特徴の解明も進んだ。 また,当初予定していなかった契丹語の文法現象に関する研究が大きく進展したが,その反面,契丹大字の文字論的特徴の解明や周辺の文字体系との対照研究には大きな進展が見られなかった。 総じて研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では契丹語の音韻体系・史的音変化の解明および契丹文字の文字論的特徴の解明を主たる目的としていたが,契丹語の音韻体系の解明には契丹語の形態音韻論や,さらには文法現象に関する研究をも扱うことがその理解の大きな助けとなることが判明したため,それらの研究も加えることにした。 今後は契丹語の音韻体系の記述を完成させるとともに,契丹語の形態音韻論的交替を記述し,いくつかの文法現象の解明を試みる。また,契丹大字の文字論的特徴の解明を進め,契丹文字と周辺の文字体系との比較・対照研究を行う。
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Research Products
(4 results)