2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国殷周王朝における馬の飼養管理から利用形態の解明を目指した実証的研究
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14J03872
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菊地 大樹 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 馬 / 殷周王朝 / 馬匹生産 / 動物考古学 / 炭素同位体 / ストロンチウム同位体 / 酸素同位体 / 三次元計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、陝西省考古研究院の協力のもと、豊鎬遺跡(西周時代)と寨頭河遺跡(戦国時代)の2遺跡から出土した馬骨の分析を実施するとともに、湖北省文物考古研究所が発掘調査している、郭家廟墓地(春秋時代)より出土した馬の実地調査を実施した。 このような実地調査による形態分析に加え、新たに確立した分析手法の向上に努めた。昨年度、歯エナメル質のハイドロキシアパタイトの炭素同位体比を分析することで、幼馬における食性変遷を把握する分析手法を確立し、飼養管理体制下での給餌実態を捉えることに成功した。本年度は、炭素同位体分析に加え、酸素同位体とストロンチウム同位体の分析を組み合わせた分析手法を導入した。酸素同位体は、長距離移動した個体を識別するのに有効な指標とされており、ストロンチウムは地質に由来し、摂取した飲み水や植物を通じて骨や歯に蓄積される。そのため、ふたつの同位体と組み合わせることで、移動した個体の識別に有効な手段となると考えた。この多元同位体分析を、昨年度調査した閻家寨(空港緑地)祭祀坑試料で試したところ、2~3歳にかけてC4植物を大量に給餌されるタイミングに合わせ、飼養地が移動している個体を確認することができた。こうした現象は、これまで古典籍や出土文字資料にはみられず、この分析手法を導入することにより、中国古代王朝による馬の飼養管理実態をこれまで以上に詳細に描くことが可能となった。 また「秦律」の整理からは、牧の様相、伝馬の給餌や防疫対策といった、馬匹生産にかかわる具体的な様相を把握することができ、同位体化学分析結果とあわせ、馬匹生産の様相をより具体的に導き出せる段階にまできている。 このほか、奈良文化財研究所の(故)松井章氏と進めていた、三次元計測による動物骨の形態比較研究の成果として、奈良文化財研究所のデータベース上で「3D Bone Atlas Database」を公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、新たに確立した分析手法の向上をめざし、炭素同位体比による食性分析に加え、酸素同位体とストロンチウム同位体分析を組み合わせることで、給餌形態と飼養地の実態を、より具体的に描き出すことに成功した。この成果については、すでに国内外で発表をおこない、高い評価を得ている。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は最終年度であるため、更なるデータの蓄積に加え、これまでの成果をまとめ、積極的に学術雑誌等で発表していく予定である。
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