2014 Fiscal Year Annual Research Report
関わり合い概念から考える北インド・チベット系社会の政治と親族の再編に関する人類学
Project/Area Number |
14J03982
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中屋敷 千尋 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 文化人類学 / 親族 / 政治 / 関わり合い |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、北インドのチベット系社会「スピティ」において近年の選挙活動を媒介としながら新たに形成されている共系親族集団nirinに照準を合わせ、その複雑な実態と選挙への影響を解明することである。その際、とりわけ(1)女性の実践、(2)日常生活における対面的関係としての“関わり合い(relatedness)”に着目することで微視的な視点から明らかにすることを目指した。そのため、平成26年度は4月から8月、9月から3月の間、インドにて長期調査を行った。 5月のインド総選挙を観察したところ、地方村長選挙における政党員の親族への必死の働きかけ、それによる親族関係の変化という現象とは大きな違いを観察できた。インド総選挙では立候補が地元出身者でないため、政党員や今回着目していた女性の働きかけは控えめで、親族関係が選挙において劇的に変化する様子は観察できなかった。 そのため、その後は親族関係nirinの実態を把握するため、特に女性に焦点をあて、日常生活の参与観察を行うことにした。5月から8月にかけて、畑仕事をともに毎日行ない、畑仕事における親族関係の互助関係を観察した。そこでは2-3人という少人数で仕事がなされていた。それは手伝いを求めれば後に手伝わねばならず、大変な労働作業になるからである。ここには、本研究が依拠するジャネット・カーステンの関わり合いの概念よりも、潜在的に張り巡らされているネットワークを有限化し、意味ある、あるいは効果的な関係を築こうとする試みがみてとれる。これはマリリン・ストラザーンのCutting Networkの考えに近い。 この他にも、儀礼において選挙と異なる親族の立ち表れ方を観察できた。親族が拡大されるのではなく、その場その場でnirin関係が立ち現れる現象がみられた。nirinにおける場面ごとの立ち現れかたの違いについては今後さらなる研究が必要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究のはじめの目的は、近代的政治システムと伝統的親族システムがいかに接合し、北インド・チベット系社会においてnirinという新たな親族関係を成立させるに至っているのかを、「関わり合い」概念をキーワードに明らかにすることにあった。 平成26年度の約10カ月の調査において、親族関係が血縁や婚姻によって実体的に予め決定されるのではなく、むしろ人びとの日常的・対面的関係性、つまり関わり合いを通じて「構築」される場面を観察し、データとして蓄積することができた。それは、調査の後半になるにつれて、筆者自身も受け入れ先の家族に「娘」や「家族」として言及されるようになったことからも伺える。 ただし、研究実績の概要にも書いた通り、関係を一から構築するベクトルだけではなく、畑仕事での労働力の制限からもみられるように、潜在的に張り巡らされる関係を有限化し、効果的なものにするという一見前者とは逆のベクトルととらえられるような現象も多々みられた。潜在的ネットワークを制限し意味あるものにするという考えはマリリン・ストラザーンのCutting Networkの考え方に近い。また、日常的な付き合いがなくとも、しかるべき状況下に置かれればnirinの関係が立ち現れる事例もいくつか観察できた。ここからは、親族関係nirinが関わり合いの概念のみで説明することが困難だということは明らかである。 また、平成27年度に予定していた『文化人類学』への投稿論文(選挙と親族に関するテーマ)も平成26年12月に掲載された。以上の研究の成果から、筆者は本研究は当初の計画以上に進展しているのではないかと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」と「現在までの達成度」に記述したように、現時点では、インドの調査地における長期調査は終了したため、平成27年度は、文献研究を集中的に行なう予定である。 まずフィールドデータの整理を行う。日常的な関わり合いの蓄積を把握し、特異な事例などをピックアップする。 それとともに、文献研究を行なう。まず本研究が依拠するジャネット・カーステンの「関わり合いrelatedness」の議論を再度把握する。そして、近代政治システムの土着化と、土着的親族システムのグローバル化への適応に関連する文献を精査する。また、フィールド調査でえられた新たな事例の理解に必要不可欠だと思われるマリリン・ストラザーンのCutting Networkの議論ならびにそれに関連する著書を精査し、彼女の基本的な考えを理解する。その後、フィールドデータを上記の議論と突き合わせながら分析を行なう。 また、これまでの調査と文献研究の成果を国際学会ならびに国内の「文化人類学会」や「南アジア学会」で発表する。それとともに、論文と英語論文としてまとめて『文化人類学会』、『南アジア研究』などの学会誌、そして『Current Anthropology』などの英文学術雑誌に投稿する。補足すべきデータがある場合には8月~9月に追加調査を行ない、補う。 上述した研究成果をまとめて博士論文を執筆する。博士論文の成果は国内外の諸雑誌に論文を投稿し、学会発表をおこなうことで成果を学術ならびに社会に還元する。
|
Research Products
(2 results)