2014 Fiscal Year Annual Research Report
現代メキシコ村落における聖像と人の関係にみる宗教実践の人類学的研究
Project/Area Number |
14J04008
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川本 直美 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | カトリック祭礼 / 聖像へのケア / メキシコ / 民衆宗教 / ローカル・ポリティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、メキシコ西部村落で実践されているカトリックの宗教実践において、①聖像というモノと人間の関係を明らかにすること、②対立関係にある共同体とカトリック教会の関係について明らかにすること、これらのことから今を生きる彼らにとっての宗教のあり方を明らかにすることである。 調査地のT村では村にあるニーニョ・ディオス像(幼子イエスの姿を現した像)の安置場所や管理方法を巡って住民と教会が対立し、現在この像の祭りは教会から離れ、住民主体で実施されている。しかしこれ以外のカトリック聖人像を祝う祭りを調査してみると、住民は教会と協力して祭りを組織・運営している。ここでは一方では教会とは距離を置き、他方ではその対立の構図は影を潜め、人びとと教会は共存している状況を明らかにした。これは「研究実施計画」で述べた6つの調査項目のうち、3)ニーニョ・ディオス像の位置づけに該当する。 ニーニョ・ディオス像と人の関わり合いについては、調査項目2)世話人家の空間の調査を行なった。祭りの主催や聖像の管理・世話の責を担う「世話人」という役職は現在、12月25日にその任期が開始する。ここではまずニーニョ・ディオス像を世話人宅に迎え入れる準備段階から調査を開始した。2015年世話人とその親族は、像の受け入れにあたり、祭壇では馬屋でイエスが生まれた様子を再現し、祭壇の周辺にはイエス降誕までの物語を描いた絵を設置した。これらの周囲にあるモノによって12月25日から祭壇に安置される像がイエス・キリストであること、そしてその誕生が改めて確認されていく様子を観察することができた。 上記の調査結果は、本研究の二つ目の目的である共同体と教会の関係の解明に寄与するだけでなく、一つ目の目的である聖像というモノと人の関係の考察に向けても、それを取り囲む状況を解明したという点で意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の研究目的は、現段階でおおむね順調に進展しているといえる。本研究課題では、住民と教会の対立関係や共同体レベルの祭礼のような公的な領域で行われ、マクロな視点で分析できる実践と、聖像と人の関係といった私的領域で行われ、分析にはミクロな視点を必要とする実践の双方を扱っている。公的領域での実践を対象にした調査では、T村住民が宗教的権威である司祭と対立しつつもその宗教実践の維持を可能にしている要因として「村外にも及ぶ祭礼組織の拡張、それによる社会関係の形成」と「住民の両義的な教会への関わり方」があると明らかにした。 以上のことは私的領域に属する、聖像というモノと人の関係の考察に向けても、それを取り囲む状況を解明したという点で意義がある。また、聖像と人の主な相互行為の場である世話人家の空間の調査を行なったことで、ニーニョ・ディオス像と住民を取り巻く「環境」を明らかにし、そこで交わされるニーニョ・ディオス像と人の関わり方を観察することができた。T村のニーニョ・ディオス像を巡る実践の大きな特徴に、像をその腕に抱くことができるという点がある。この像に対し実際の赤ん坊のように接する住民の行為からは、像と人の間に神―信者という関係だけでなく、世話をされる存在―世話をする存在という関係も見出せる。 以上のようにこの調査から、聖像を介した多様な関係を確認することができた。しかしながら現段階では細かなデータを収集している段階であるため、これらのデータを分析するまでには至っていない。それゆえ本研究課題の研究目的は、現段階でおおむね進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、「研究実施計画」に記載した6つの調査項目のうち、1)ニーニョ・ディオス像と人間の関わり合いの調査、4)個人の宗教的実践の調査、5)人びとの日常的実践の調査について重点的に調査を進めていく。 1)では、引き続きミクロな視点から像と人の関わり方を観察・分析し、聖像と信者一人一人の関係の構築について考察する。世話人家という空間で交わされる日常的な像とのやり取りと、像が起こした「奇跡の語り」も収集し、非日常的な像との関わり方も考察する。 4)では共同体と教会の関係を問うために、成員である一個人と教会の関係を、カトリック教徒として信者が受ける7つの秘跡儀礼を通じて明らかにする。この儀礼を行なうには所属教区の司祭によるミサが必要となり、ある個人が秘跡を行なった記録は所属する教区教会の公証人役場によって管理される。共同体と教会の間で対立があるT村では葬式も含め、個人が教会の助けが必要になる秘跡儀礼をどのように捉え、どの程度実施しているのかを検討する。その際に中心的に分析するのは秘跡儀礼の際に結ばれるカトリックの擬制親族関係である。ある個人のライフストーリーを追いながら、秘跡儀礼を通じて人々は教会とどのような関係を築いているのか、そして人々の間にどのような教会を介したつながりを生み出しているのかを明らかにする。 5)ではニーニョ・ディオス像をめぐる住民間の対立が人々の日常生活にどのような影響を与えているのか、生業活動における人々の相互行為や対立以前から維持している交友関係を検討することで明らかにする。 理論的研究、文献資料の収集と調査に関しては、平成26年度同様、通年を通して実施する。長期フィールドワークと並行して、収集したデータを分析し、博士論文に仕上げていくのが採用2年目の課題となる。
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Research Products
(1 results)