2014 Fiscal Year Annual Research Report
イネ科作物の耐湿性強化に寄与する根の酸素漏出バリア形成機構の解明と応用
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14J04422
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡邊 宏太郎 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | Zea nicaraguensis / 酸素漏出バリア / 染色体断片置換系統 |
Outline of Annual Research Achievements |
根の表層に形成される酸素漏出バリアは、Zea nicaraguensisの耐湿性に貢献している。本研究では、Z. nicaraguensisとトウモロコシの染色体断片置換系統(Introgression line, IL)シリーズを用いて、Z. nicaraguensisのもつ酸素漏出バリア形成制御因子が座乗する染色体領域を同定し、QTLピラミディングによりトウモロコシに導入することで、酸素漏出バリア形成能を持つ耐湿性の高いトウモロコシを作出することを目的としている。さらに、これまで明らかになっていなかった酸素漏出バリア形成を制御する候補遺伝子の推定を行う予定である。上述の目的を達成するために、本年度、以下の実験を行い、成果を得た。 1. 染色体断片部分置換系統シリーズ45系統の酸素漏出バリア形成能を評価し、形成能を持つIL系統を選抜した。 2. 1.の結果、酸素漏出バリア形成能を持つことがわかったILはZ. nicaraguensisの染色体断片を複数持っていたため、その兄弟系統の酸素漏出バリア形成能の評価を行うことで、形成能に関与する染色体断片を決定した。 3. DNAマーカーを用いた遺伝子マッピングによって、原因遺伝子の座乗する推定領域を狭め、候補領域を4Mbにまで縮めた。 4.酸素漏出バリアの構成成分の一つとして細胞壁成分のスベリンが示唆されているが、酸素漏出バリアを形成しないトウモロコシにもスベリンの蓄積は見られる。そこで、Z. nicaraguensisとトウモロコシに蓄積するスベリンの成分を分析したところ、蓄積量および成分の違いが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はじめに予定した研究実施計画に対して、おおよそ順調に実験を進めることができた。トウモロコシとZ. nicaraguensisの間で作出された染色体断片置換系統シリーズを用いた酸素漏出バリア形成能のスクリーニングでは、スクリーニングの前の栽培条件および評価条件が固まるまでに時間を要した。トウモロコシは嫌気還元処理に弱く、幼植物体時に強いストレスを受けると酷い生育障害が起きる。また、Z. nicaraguensisの酸素漏出バリア形成能は不安定な形質であり、ストレスが弱いと形成しない。これらのトウモロコシおよびZ. nicaraguensisの特徴から、適当な栽培条件および評価条件を確立した。確立した条件において染色体断片置換系統シリーズのスクリーニングは順調に進み、無事酸素漏出バリア形成能をもつ系統を選抜できた。また、酸素漏出バリア形成能に関与する染色体領域で組換えを起こした個体を評価することにより、順調に候補領域の絞り込みが進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果により、酸素漏出バリア形成能に関与する染色体断片の候補領域が明らかとなった。現在、この領域をもつ染色体断片置換系統をトウモロコシに戻し交配しており、今年度後代が取れる予定である。そこで、これらの戻し後代系統を用いて、酸素漏出バリア形成能の評価を行い、候補領域のさらなる絞り込み(遺伝子マッピング)を行う予定である。 また、トウモロコシとZ. nicaraguensis、さらに候補領域をホモ接合で持つ凖同質遺伝系統(Near isogenic line, NIL)を用いて、酸素漏出バリア形成部位における遺伝子発現パターンをRNA-seqを用いて解析する予定である。 異種間における交雑では、染色体構造の違いから組換えが起こりにくい領域が存在する。遺伝子マッピングでは染色体の組換えが起こりにくい領域では困難な方法であるが、RNA-seqを用いることで、ROLバリア形成時に特徴的な発現パターンを示す遺伝子を絞ることが可能となると考えられる。
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