2014 Fiscal Year Annual Research Report
進化医学が拓く新たな人類学:ヒト集団で広範にみられる解毒酵素欠損多型の進化的背景
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14J04456
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齊藤 真理恵 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 進化人類学 / 自然選択 / 遺伝的浮動 / 比較ゲノム / 解毒酵素 / 霊長類 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ヒトの集団遺伝学 細胞解毒酵素GSTM1およびGSTT1の機能欠損型であるNull型は,世界84の人類集団に普遍的に存在し,異なる地理的分布を示すことを文献のメタ解析より明らかにした。上記のメタ解析では東南アジア・オセアニアのデータが少なかったため,東南アジア・オセアニアの15集団1004人の遺伝子型をコンベンショナルPCR法,ロングレンジPCR法によって明らかにした。上記の文献データと合わせると,GSTT1のnull型の頻度と緯度が相関することが示され,環境適応の影響が示唆された。また,ダイレクトシーケンシング法によって,ヒト一個体のnullアリル13kbの塩基配列を明らかにした。 (2)霊長類の比較ゲノム ヒトGSTM1 遺伝子の両側には,互いに類似性の高い「スキップ配列」 が存在するため,染色体の不等交差により欠失が起きる。欠失型対立遺伝子の起源を調べるため,Refseqのデータを用いてin silico比較ゲノム解析を行った。その結果,チンパンジー・オランウータンの系譜でGSTM遺伝子クラスターを含む領域において染色体逆位が起きていた。また、ヒト・オランウータン・ボノボで逆転写によるGSTM2遺伝子の重複が起きていた。さらに, チンパンジー,オランウータンでもヒト同様 GSTM1 遺伝子の両隣にスキップ配列が存在した。従って,チンパンジー,オランウータンも染色体の不等交差によるGSTM1 遺伝子の欠失多型をもつ可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の発表に関しては、学会における口頭発表に加え、国際誌に投稿し、受理・公表され、一定の業績を生み出しつつある。 ゲノムデータベースを活用とした進化ゲノム解析と実験研究をマージした、新たな取り組みを展開し、新知見の解明の端緒を開いた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトの集団遺伝学については、アジア・アフリカ・ヨーロッパなど様々な集団に属するヒト個体のGSTM1 nullアリルのシーケンシングをおこない、ヒトnullアリルの起源・拡散について調べる。 霊長類の比較ゲノムについては、現在まではデータベースのデータを用いた解析のみをおこなっていたが、これから、研究室で保有している豊富な霊長類DNAを用いて、GSTM1遺伝子のnull型多型の進化過程を実験的に確かめていく。
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Research Products
(3 results)