2015 Fiscal Year Annual Research Report
進化医学が拓く新たな人類学:ヒト集団で広範にみられる解毒酵素欠損多型の進化的背景
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14J04456
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齊藤 真理恵 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 人類進化 / DNA / 解毒代謝 / 遺伝子 / 霊長類 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から行っていた解毒代謝酵素遺伝子GSTM1およびGSTT1の,世界中のヒト集団における頻度を,文献調査(81集団)及び実験(19集団)によって明らかにした。低緯度で紫外線照射量の多い東南アジア・オセアニア地域では予想に反し高い頻度のGSTM1欠失多型が観察された。GSTM1遺伝子欠失多型頻度は緯度と相関がなかったことから,紫外線適応とは関連がないと結論づけられた。GSTT1遺伝子欠失多型頻度は緯度と逆相関したため紫外線や気温と何らかの関連がある可能性がある。 東南アジアDani族のGSTM1 null alleleプロダクト約13kbの全長をシークエンシングし,参照ゲノムの野生型配列と比較した結果,組み換えが起きた部位が,部分的に報告されていたヨーロッパ人の組み換え部位(Xu et al., 1998)と異なっていた。これにより,組み換えによる欠失アリル創出が人類集団において何度か独立に起きたことがわかった。これについてさらに調べるため,1000ゲノムデータ,および東南アジア・オセアニアのサンプルを用いた実験により,nullアリルの起源と拡散について探究しているところである。 GSTM1遺伝子の欠失は,その両隣にある,非常に類似した二つのSegmental duplication(以下SD)配列の組み換えによって生じたとされる(Xu et al., 1998)。PCR法を用いて非ヒト霊長類におけるGSTM1欠失多型の有無を確かめた結果チンパンジーが欠失多型を持つことが分かった。ヒトとチンパンジーの欠失アリル及び野生型アリル,および祖先形としてRefseq上のオランウータンの野生型アリルの配列を比較した結果,チンパンジーの欠失アリルがヒトの欠失アリルとは独立に生じたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
解毒代謝酵素遺伝子GSTM1の進化過程について、ヒト集団および霊長類の比較ゲノムという二つのスケールから明らかにしつつある。ヒト集団におけるGSTM1遺伝子欠失の分布や、欠失アリル創出が人類集団やほかの霊長類において何度か独立に起きたことが明らかになった。これらの成果は国際学会において受理され、発表された。 当初GSTM1およびGSTT1の二つの遺伝子欠失において研究する計画だったが、GSTM1欠失がほかの霊長類にも共有されていることが明らかになったため、こちらの遺伝子の進化過程を細やかに明らかにすることがより重要だと考え、研究対象をGSTM1のみに絞って、詳しく調べることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
人類集団における欠失アリルの創出とヒトの拡散との時間的関係を推測するため、世界各地の集団のゲノムデータ(1000ゲノム)を用いた情報科学的解析を行う。また東南アジア・オセアニア人サンプルを用いた実験を行い、「東南アジア人特異的」欠失がどの程度集団間で共有されているかを調べる。
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Research Products
(4 results)