2014 Fiscal Year Annual Research Report
現代アメリカ先住民文学における土地と環境正義に関する研究
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14J04465
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
黒住 奏 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 研究発表 / 国際情報交換(アメリカ合衆国) |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、現代アメリカ先住民文学作品の中でも代表的な作家である、Leslie Marmon Silkoの『儀式(Ceremony)』を中心に研究を進めた。作品に描かれる環境正義の問題に焦点を当て、Henry David ThoreauやRachel Carsonといった正典的環境文学作品における白人作家による環境文学作品に示される環境観と比較検討し、双方の自然観や土地観における類似点や相違点をより明確にし、現代アメリカ先住民文学に描かれるアメリカ先住民の環境観を明らかにした。2014年6月に行われた中・四国アメリカ文学会大会では、「境界を越える物語:Leslie Marmon Silko のCeremonyにおける文化的多様性」の口頭発表を行った。2014年10月に行われた日本アメリカ文学会全国大会では、6月の研究発表を土台とし、論点を更に発展させた研究発表「Leslie Marmon SilkoのCeremonyにおける文化的多様性と環境的ビジョン」の口頭発表を行った。Tayoの混血性をはじめとする本作品の文化的多様性について考察し、人間と環境のつながりに焦点を当てることで、混血性、社会的不平等および環境問題の複雑な関係をより詳細に読み解き、Silkoの環境的ビジョンを明らかにした。また、2015年2月5日から2月25日の20日間で、アメリカを訪れ、南西部を中心に現地調査を行った。アリゾナ州立大学、ニューメキシコ大学の図書館や、博物館などのアメリカ先住民関連施で、文献調査や資料収集を行った。さらに研究対象である作品の舞台であるアメリカ先住民の居留地や町を訪れ、リサーチを行った。アリゾナ州立大学では、環境正義研究の権威である研究者の方に面会し、研究を進める上で非常に有意義な意見をもらうことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的は、初年度において環境批評の歴史と環境概念の発展を調べ、ThoreauやCarsonといった正典的環境文学作品と現代アメリカ先住民文学を比較検討し考察することで、アメリカ主流社会における環境概念と、現代アメリカ先住民文学における環境観の類似点や相違点を明確にすることであったため、その点においては計画通りに達成できた。また、6月に開催された中・四国アメリカ文学会大会および10月に開催された日本アメリカ文学会全国大会で一連の研究発表を行ったことは、計画していた以上の成果であるといえる。初年度の早い段階で、本研究のテーマである現代アメリカ先住民文学における環境正義問題と土地に関する研究の土台を作るには、まず最初にLeslie Marmon Silkoの『儀式(Ceremony)』を中心に研究を進めていく必要性を感じたため、2年目に取り掛かる予定であった本作品を優先的に研究した。またそれに付随して当初予定していなかったSilkoの『死者の暦(Almanac of the Dead)』や同作家の他の作品群が重要な研究対象となることが分かったため、初年度に研究する予定であった現代アメリカ先住民作家ではなく、Silkoに重点を置いて研究を進めた。また、研究発表をしたものを論文にまとめ、学術雑誌への論文投稿を予定していたが、2月にアメリカに渡航した際の現地調査や資料収集をもとに、執筆していた論文の内容をさらに発展させるため、初年度の研究結果をまとめた論文の学術誌への投稿は本年度の秋を考えている。以上のことを省みると、当初の予定からは多少なり変更はあったが、研究課題の達成はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、現代アメリカ先住民文学作品の中でも代表的な作家である、Leslie Marmon Silkoの作品群を中心に、アメリカ先住民文学における環境正義問題を研究を進めていく。昨年度の研究で、本研究を遂行していく上で、Silkoの作品を重点的に研究する必要性が明らかになった。よって、本年度では、当初の研究計画では考えていなかった、植民地主義とアメリカ先住民の土地奪還を描いたSilkoの長編である『死者の暦(Almanac of the Dead)』を中心に研究を進めていく。環境正義問題を論じていく上で欠かすことのできない、植民地主義と土地略奪の問題は、自然環境の破壊による生態系の崩壊や、それにつながるアメリカ先住民文化の喪失と密接な関係がある。本作品に描かれる武器や麻薬の密売、殺人、誘拐、貧困、腐敗政治、環境破壊といった暴力と犯罪にあふれたディストピア的世界をアメリカ先住民の環境観や、環境正義の視点から考察し、環境破壊および社会問題とアメリカ先住民文化の関係性を明らかにしていく。また、Joni Adamsonが指摘するように、本作品に登場する双子の老姉妹や行動力のある女性の存在は、実際の環境正義運動における活躍を反映したものであり、本作品が中産階級の白人男性を主体とする従来の環境運動に対して、環境破壊へ対抗する人種・ジェンダー・国家の境界を超えた新しい抗議の形であることを論証していく。これらの研究で得られた結果を論文にまとめ、秋の研究発表と学会誌への投稿を行う。さらに、『砂丘の庭(Garden in the Dunes)』や、『トルコ石の岩脈(The Turquoise Ledge: A Memoir)』といった詩、短編、随筆をふくめたSilkoの作品群も読み解き、これらの作品の環境正義の文学としての有効性を明らかにしていく。
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Research Products
(2 results)