2014 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト培養細胞を用いたミトコンドリア核様体分配機構の解析
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14J04552
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐々木 妙子 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ミトコンドリア核様体 / EdU / mtDNAの複製 / 細胞周期 / Fucci2 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内において、ミトコンドリアDNA(mtDNA)はミトコンドリア核様体と呼ばれるタンパク質-DNA複合体として存在する。mtDNAには、ミトコンドリアの機能に必須な遺伝子がコードされており、ミトコンドリアの機能維持には、それらmtDNAの正常な伝達が重要である。ミトコンドリア核様体はmtDNAの分配ユニットとして機能しており、その数や大きさは、ミトコンドリア核様体の分裂とmtDNAの複製により、細胞内で厳密に制御されていると考えられる。しかし、それらがどのように制御されているのかは、未だほとんどわかっていない。 昨年度は、細胞周期におけるミトコンドリア核様体の分裂時期、およびmtDNAの複製時期を、細胞周期インジケーターであるFucci2 (Fluorescent Ubiquitination-based Cell Cycle Indicator 2)を導入したHeLa細胞を用いて解析した。まず、ミトコンドリア核様体のライブイメージングを行い、細胞周期におけるミトコンドリア核様体の数を解析した。その結果、S期において顕著に増加することがわかった。さらに、チミジンアナログであるEdU (5-ethynyl-2'-deoxyuridine)を用いてmtDNA合成を可視化する方法を確立し、細胞周期における複製効率を測定した。その結果、G1期ではmtDNAの合成活性は低レベルであったが、S期に活性が上昇することがわかった。さらに、mtDNAの複製阻害剤であるジデオキシシチジンに曝した際、細胞周期の進行は正常であるにも関わらず、ミトコンドリア核様体の増加が起こらなくなった。以上から、ミトコンドリア核様体の分裂にはmtDNAの複製が必須であり、これらは細胞周期によって制御されている可能性が示唆された。今後は、これらの制御を担う分配因子の同定を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ミトコンドリア核様体の数、大きさの制御機構を明らかにすることを目的としている。昨年度は、ミトコンドリア核様体の分裂にはmtDNAの複製が必要であること、細胞周期においてミトコンドリア核様体の分裂とmtDNAの複製が制御されていることを示唆するデータが得られた。これらは、mtDNAを正確に娘細胞へ伝達するための新たな機構の存在を示唆しており、新規のミトコンドリア核様体分配制御因子を同定できる可能性を広げた点で、高く評価できると考えている。 また昨年度は、mtDNAの複製効率の安定的な可視化にも成功した。これまでにmtDNAの複製を可視化する方法は、チミジンアナログであるBrdU(5-bromo-2'-deoxyuridine)を用いて行われてきた。BrdUは、新規に合成されたDNAに取り込まれ、免疫染色によってDNA合成を可視化することができる。しかし、免疫染色の過程で二本鎖のDNAを一本鎖にする必要があり、この過程に感度が大きく左右されてしまう欠点があった。そこで私は、同じくチミジンアナログであるEdU(5-ethynyl-2'-deoxyuridine)を用い、DNAの変性を行うことなく新規に合成されたDNAを検出できる方法を確立した。これにより、1時間程度の短時間のラベルでも、安定的に新規合成されたmtDNAを検出できた。この手法は、今後の研究の進展に重要であるだけでなく、今後のミトコンドリア研究においても大きく貢献すると考えている。今年度は、以上の成果を基盤として、新規分配因子の同定を含めたさらなる研究の進展が望める。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではこれまでに、ミトコンドリア核様体のライブイメージング方法を確立し、ミトコンドリア核様体が分裂と融合を繰り返しながら、その数や大きさを維持していることを見出してきた。また、分裂を制御する候補因子としてWBSCR16を同定している。RNAiによりWBSCR16を発現抑制すると、ミトコンドリア核様体の分裂が阻害され、分裂と融合のバランスが融合側に傾き、核様体の巨大化が起こる。そこで本年度はWBSCR16の構造解析を行い、機能を明らかにする。また、DNAへの結合能、およびWBSCR16のミトコンドリア内における詳細な局在の解析など、生化学的な実験も併せて行う予定である。 また、同時に分配因子の探索を行う。昨年度の成果より、ミトコンドリア核様体の分裂が細胞周期およびmtDNAの複製と密接に関与することが示唆されたため、mtDNAの複製もしくは細胞周期の制御因子について網羅的にRNAiによる発現抑制を行う。共焦点顕微鏡によりミトコンドリア核様体を観察し、ミトコンドリア核様体の分裂に異常をきたすものを候補因子として、WBSCR16と共に解析を行う予定である。 以上のような分配因子の同定、解析と併せて、ミトコンドリア核様体の細部の観察方法確立も目指す。ミトコンドリア核様体の分裂には核様体がミトコンドリア内膜と結合していることが重要であることが、当研究室の先行研究により示唆されているが、ヒトにおいては核様体の細部を正確に観察する方法が確立されていない。当初の計画では電子顕微鏡を用いて観察する予定であったが、実際に行ったところ固定方法によってミトコンドリアの内部構造が変化してしまうことが頻繁に起こった。そこで、近年開発されたポリマーを用いて標本を膨張させて観察する手法(Fei Chen et al., 2015)を用いて、電子顕微鏡を用いずに細部構造の解明を目指す。
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Research Products
(4 results)