2014 Fiscal Year Annual Research Report
マイクロ流体デバイスを用いた細胞間コミュニケーションの解明
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14J04627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上野 遼平 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 細胞間相互作用 / 熱ショック反応 / マイクロヒーター / マイクロ流体デバイス / カルシウムイオン / イオン選択電極 / 国際研究者交流 / スイス |
Outline of Annual Research Achievements |
私は局所温度制御機能付き細胞培養用マイクロ流体デバイス及び局所温度制御機能付きカルシウムイオン選択電極デバイスの開発を進め、さらにマイクロ流路内に培養したNIH-3T3細胞に対して異なる温度刺激を与えた場合の反応の観察を行った。 まず、マイクロ流路内にコンフルエントに培養したNIH-3T3細胞に対して局所温度刺激を与えるためのマイクロ流体デバイスの開発を行った。設計に先だって有限要素法を用いた3次元熱解析により、流路、白金マイクロヒーターの寸法及び加熱特性などを予測してデバイスの製作を始めた 。デバイスの加熱特性の測定ではオンチップのマイクロ抵抗温度計を使用して、熱解析結果と測定結果を比較した。その結果、熱解析と測定結果のずれが薄膜金属とバルク金属の電気特性の違いに起因するとわかり、その電気特性を校正して熱解析を行うことで、熱解析の精度向上に成功した。この内容を日本電気学会の論文誌に投稿して受理された。 次に白金マイクロヒーターとカルシウムイオン選択電極デバイスの設計及び開発を行った。電極のパターニングはリフトオフにより成功したが、イオン選択膜の作成が成功していない。センシング性能の安定化と高分解能が問題であるが、イオン選択膜の成分の条件出しや、成膜時の条件など要因がいくつか考えられるので論文などをサーベイして問題解決にあたりたい。 最後に開発した局所温度制御機能付き細胞培養用マイクロ流体デバイスを用いて細胞加熱実験を行った。マイクロヒーターに対する印加電流を変化させることで様々な温度分布を細胞に与え、その反応性を比較した。その結果熱ショック反応の示す範囲が熱解析結果によって示される温度域と一致した。この実験結果を国際学会で発表した。細胞間コミュニケーション現象の観察には至っていないが、今後、実験を繰り返して再現性の確保やコミュニケーション現象の発見につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マイクロ流路内に培養したNIH-3T3細胞層に対して、局所的に温度刺激を与えることができる局所温度制御機能付き細胞培養用マイクロ流体デバイスの開発に成功した。オンチップのマイクロ抵抗温度計による加熱温度測定に加えて、有限要素法による流路内の温度分布計算を行った。温度測定結果と熱解析結果は良く一致しており、正確な温度刺激を細胞に対して与えることが可能となった。マイクロヒーターを細胞に対して局所的熱刺激を与えることに応用した例は無く、新しい研究成果と言える。 また、マイクロ流体デバイスの熱解析結果と細胞加熱実験の結果はよく適合しており、本デバイスが細胞の実験に有用であることが示された。つまり、細胞生物学においてマイクロ流体デバイスを用いた新たな実験系の構築に成功したと言える。今後も細胞加熱実験に関するデータを積み重ねることにより細胞間相互作用に関する新たな知見が得られると確信している。 イオン選択電極に関しては製作が遅れているが、今後もイオン選択膜の成膜条件の最適化を続けることにより、センサーの安定性などの課題を解決できると考えられる。 このように当初の計画通り局所温度制御機能付き細胞培養用マイクロ流体デバイスの開発に成功し、温度特性評価及び細胞加熱実験に成功しているので、実験系はよく構築されている。イオン選択電極の開発はまだ成功していないが、細胞間相互作用に関する研究は十分に続けられるので、今後の繰り返し実験によるデータから得られる細胞間相互作用現象に対して大いに期待している。よっておおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方策としては、まずイオン選択電極の開発に成功することが挙げられる。しかし、カルシウムイオンの測定に限れば、生物学の分野で広く用いられている蛍光色素によるカルシウムイオン濃度の測定も可能であるので、このような手法も組み合わせながら細胞間相互作用に関する研究を続けていきたい。 マイクロヒーターでは温度の時間反応もマクロ系よりは早いので、パルス加熱による刺激など温度以外の条件を変えて、細胞の熱ショック反応性に関して研究していきたい。 また共同研究者が単一細胞トラップ及び長期培養可能なマイクロ流体デバイスの開発に成功したので、我々のデバイスにおける熱ショック反応と比較を行うことが可能となった。このことにより、細胞の数や、集団内の細胞と単一細胞における熱ショック反応の違いなど、温度以外のパラメーターを変化させた細胞間相互作用の研究も可能となった。 このように局所的熱刺激下における細胞の反応性に関して、さまざまな視点から研究するシステムが出来上がり、今後も生物学的に有意義かつ新たな知見が得られると考えられる。
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Research Products
(8 results)