2014 Fiscal Year Annual Research Report
電子・光子両状態制御に基づく高効率・高速熱輻射光源の開発
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14J04729
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 卓也 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 熱輻射 / フォトニック結晶 / 量子井戸 / サブバンド間遷移 / 中赤外光源 |
Outline of Annual Research Achievements |
熱輻射光源は様々な波長の光源として広く利用されるが,広帯域な輻射を示すためにパワー利用効率が低く,かつ輻射強度が光源の温度で決定されるために応答速度が極めて遅いという課題を有する.そこで本研究では,必要な狭い帯域のみで高効率に発光し,かつその輻射強度を高速に変調することができる熱輻射光源の開発を目的としている. 今年度の研究では,上記の課題のうち,熱輻射光源の発光強度を高速にON/OFFすることに重点的に取り組んだ.具体的に設計した光源は,(1)GaAs/AlGaAs量子井戸構造, (2)(1)の層を挟むPNダイオード構造, (3)(1)と(2)の層に空気孔を周期的に導入した人工的な光ナノ構造(フォトニック結晶)の3つを組み合わせた光源である.上記の光源を加熱すると,(1)の量子井戸内の自由電子が特定の波長の中赤外光を生じ,その光が(3)のフォトニック結晶内で共鳴することで,さらに狭帯域・高強度な熱輻射として光源の外部に取り出される.一方,(2)のPNダイオードに電圧を印加すると,(1)の量子井戸内の電子密度が減少するため,上記の熱輻射強度も減少する.つまり,上記の光源においては,光源に印加する電圧値を変化させるだけで,熱輻射強度の変調が可能になる. 光源の設計後は,実際に光源の作製を行い,熱輻射特性の評価を行った.その結果,作製光源は波長9 um付近を中心とした非常に狭帯域な発光を示し,その輻射強度が印加電圧に依存して大きく変化することが確認された.また,印加電圧を高周波信号としたところ,従来の熱輻射光源の約6000倍の速度に相当する周波数600 kHzでの輻射強度変調が実現した.本成果に関して,申請者が執筆した論文はNature Materials誌に掲載され,複数の新聞にもその内容が取り上げられるなど,多くの研究者・企業関係者の関心を集めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画においては,平成26年度中に,①狭帯域・高効率中赤外光源の開発,②熱輻射強度の高速制御に向けた量子井戸ウエハの設計・評価,の2つを予定していた.実際には,①の狭帯域な発光と②の高速制御を同時に実現する熱輻射光源を設計することができ,さらに,当初は来年度に行う予定であった高速制御の実証実験までを本年度中に行うことができた.熱輻射光源の輻射強度を,光源の温度ではなく印加電圧で制御するという本年度の成果は,世界で初めての成果であり,上記の内容をまとめた論文は,本分野で注目度の高い雑誌として知られるNature Materials誌に掲載された.以上の観点から,当初の計画以上に研究が進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,これまで本研究で開発してきた狭帯域・高速変調型熱輻射光源に電流注入加熱機構を導入することにより,少ない投入電力で高効率に発光する実用的な熱輻射光源の開発に取り組む予定である.また,上記で開発した高効率・高速熱輻射光源を,波長を変化させながら集積化することにより,熱輻射波長の高速制御等の新たな機能を実現し,それを赤外センシング等に応用することを目指す. また,これまでの熱輻射光源開発は波長9 um帯に限定されていたので,光源材料や光源構造を変更することにより,より短波長で動作する熱輻射光源の開発も行いたい.具体的には,異なる材料・構造を有する量子井戸を利用した波長4-5 um帯の光源や,シリコンのバンド間遷移を用いた近赤外熱輻射光源の開発を行う予定である.
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Research Products
(10 results)