2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J04744
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大瀧 真俊 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 農業史 / 畜産史 / 軍事史 / 東北地方 / 戦時体制 / 馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「戦時体制下の軍馬資源政策と東北農民の対応」に関する研究の1つとして、「戦時体制下における馬の徴発が農業経営に与えた影響」に関する研究を行なった。具体的な実施内容は、4つに分けられる。 1.上記研究の基礎資料として、農林省馬政局「馬産経済実態調査」1937-1940年(東京大学・一橋大学ほか所蔵)とその原資料「馬産経済実態調査集計結果表」(農文協図書館所蔵)のうち、東北地方の調査地25か所・対象農家177戸に関する部分を、複写および撮影によって収集した。また両者を照合することで馬を徴発された事例を特定し、その経営に関するデータの整理と加工を行なった。以上の作業を行なうため、ノートパソコン・デジカメ・スキャナー各1台を購入した。 2.上記の補足資料を収集するため、東北地方への調査旅行を4回実施した。各県・町村立図書館、文書館、資料館等を訪問して、戦時下の東北農業・馬産に関する行政文書、地方新聞、郷土資料などを収集するとともに、上記に特定した徴発事例の調査地に赴き、地形や農業条件などを確認した。その他、資料的価値をもつ古書12点、研究書籍21冊を購入した。 3.以上の資料を分析することで、従来通説の域に留まっていた馬の徴発が農業部門に及ぼした影響(畜力・厩肥の不足、人の労働負担増など)を、農家経営レベルにおいて実証することが出来た。その成果は2015年3月27日に開催された日本農業史学会研究報告会において口頭個別報告により公表した。 4.前年度から継続している戦前東北地方の軍馬資源開発、および戦時下関東地方の軍馬動員に関する研究について、成果を著書(分担執筆)・学術論文としてとりまとめた。前者は本研究の前史的条件、後者はその比較対象を明らかにしたもので、いずれも本研究と深い関わりをもつ。その他、2つの報告依頼を受けて、本研究に関連する報告を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず研究実績の概要で示した基礎資料に関して、収集作業自体は順調に進められたものの、馬が徴発されたと特定できる農家の事例の数が当初想定していたよりも少ないという問題に直面した。この点については、軍馬購買(徴発に準じた任意の軍馬動員)の事例を加えることで対応し、概ね十分といえる分析対象数を確保することに成功した。ただしこの追加作業を要したため、3月の学会報告の際には基礎資料を分析した結果と補足資料から得られた情報とのすり合わせを十分に行なうことが出来なかった。この点については、次年度に報告内容を学術論文化する段階で修正することとしたい。 一方、当初の計画にはなかったものの、本研究と関連性が高いこれまでの研究の成果を論文・著書・報告といった形でとりまとめることが出来た。いずれの内容も本研究の前提、あるいは比較対象として位置づけられるものであり、本研究の成果を最終的にとりまとめる段階で必要となるものといえる。また本年度に実施した調査旅行においては、「今後の研究の推進方策」に示した次年度以降の研究で用いる資料の予備調査も行なった。さらに古書・研究書籍に関しても、次年度に必要となる分を一部、前倒しして購入した。以上の各点については、予定を上回る成果を収めたといえる。 以上を総合すると、交付申請書で記した研究実施計画については若干進捗に遅れが生じたものの、それ以外のところで本研究の内容を充実させることが出来たため、全体として順調に進展していると自己評価することが出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は概ね順調に研究を進めることが出来たため、平成27年度も研究計画調書の内容に沿って研究を遂行する。具体的な実施項目は、次の3つである。 1.本年度の研究成果を学術論文化する。その際、前掲した学会報告の内容に補足資料の情報を追加するとともに、馬の徴発という事例からみた東北地方に対する国家(中央政府)の支配性・強制性についても言及する。上半期内を目途として投稿したい。 2.研究計画調書に記した第二の課題「軍馬資源保護法の立案過程と施行実態」に関する研究に着手する。1939年に施行された同法は、徴発前の農耕馬に対して軍用訓練を義務づけたものであり、その実態の解明は上記の東北地方に対する国家の支配性を一層明瞭にするものと予想される。次年度は、この研究に関する資料収集を実施する。まず農林水産省系列の各施設(農林省図書館、農林水産政策研究所など)および防衛研究所史料閲覧室を訪問し、軍馬資源保護法の立案過程における陸軍省と農林省との交渉に関する資料を集める。次に東北地方の各県・市町村立図書館、文書館、郷土資料館などを訪問して、東北地方農村における同法の施行実態に関する資料(行政文書、地方新聞、雑誌、公報など)を収集する。この目的による調査旅行を4回程度実施したい。その他、戦時下東北地方の農業・馬産に関して資料的価値をもつ古書類や、関連研究書籍を適宜購入する。 3.2015年5月に中国・南京農業大学で開催される日中韓農業史国際学会において個別報告を実施する(エントリー受理済)。報告論題は「東北地方の軍馬資源開発用地における戦後開拓」(邦題)であり、その内容は本研究終了後に予定する戦後の東北農業開発に関する研究についての見通しを提示するものである。
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Research Products
(5 results)