2015 Fiscal Year Annual Research Report
質量顕微鏡法による精神神経疾患脳における脂質‐炎症相互連関の解明
Project/Area Number |
14J05334
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
近藤 豪 浜松医科大学, 医学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 脂質 / 炎症 / 質量分析 / 統合失調症 / アルツハイマー病 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に引き続き、精神神経疾患の発症・増悪の分子メカニズムを脳内メタボロームと炎症応答が与える影響の面から解明することを目的とし、統合失調症とアルツハイマー病を主な対象として研究を進めている。 統合失調症について、作用機序が不明である抗精神病薬の作用メカニズムを明らかにする視点で研究を進めた。初年度に質量顕微鏡法で同定した薬剤結合分子について、リポソーム結合アッセイ、表面プラズモン共鳴解析、等温滴定カロリーメトリーによる親和性試験を行ない、既存の手法による親和性の評価を行なった。さらに岡崎分子研の加藤教授らの協力によりNMRによっても結合が確認されつつある。神経系における結合分子の機能の観点からシナプス可塑性への影響が予想されたため、イメージングを中心とした細胞生物学的な実験を進めている。マウスの海馬神経の初代培養系を立ち上げ、遺伝子導入や高解像度イメージングも可能になった。 アルツハイマー病については、p47タンパク質の機能解明を中心に進めている。RNA干渉を用いてp47をノックダウンすると自然免疫応答時の小胞体ストレスが増加する可能性があるため、CRISPR-Cas9システムを用いたノックアウトマウスの作製を進めた。昨年度から準備を進めた機器を用いてC57BL/6Jマウスの受精卵にマイクロインジェクションを試みるつもりであったが、過排卵操作が上手くいかないために断念した。代替手段としてin vivoでゲノム編集可能なCas9ノックインマウスを入手し繁殖中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
統合失調症プロジェクトにおいては、初年度に同定した薬理標的候補分子について、複数の分子間相互作用実験で一定の親和性が評価できている。これまで知られている機能のうち神経系、特に統合失調症患者で異常が知られるものに焦点を当て、シナプス可塑性への影響が明らかになりつつある。当該研究に必要な神経初代培養実験を立ち上げ、順調に軌道に乗っている。一方で、共同研究において統合失調症患者死後脳のリピドミクス解析およびプロテオミクス解析が完了し、論文を作成ならびに投稿中である。さらにトランスクリプトーム解析を加えるために、岡崎基生研において次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析を開始した。以上のことから本プロジェクトは順調に進んでいる。 一方でアルツハイマー病プロジェクトについては、培養細胞でのゲノム編集実験が当初想定していたよりも難航したこと、前述の統合失調症プロジェクトを重点的に進めたことから、あまり進展していない。ゲノム編集による遺伝子改変マウス作製実験も進んでいないため、Cas9ノックインマウスの使用や外部の受託サービスを利用するなどの代替案を検討中である。 よって研究プロジェクト全体としては「概ね順調」が妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
統合失調症プロジェクトについては、標的候補分子を介した治療薬作用機序の解明を進める。標的候補分子の関与が知られる細胞内イベントに対して、治療薬処理がどのように影響するかを生化学的・細胞生物学的手法で確認する。薬理学的・遺伝学的に標的候補分子を増減させた場合と比較することで、標的候補分子を介した効果であることを示す。特に統合失調症で縮小ならびに減少することが知られるスパイン形成に関わるイベントについて焦点を当てる。主にin vitroでの実証データを集め、特許出願および論文投稿を進める。新規性・速報性を重視し、マウスを用いた脳高次機能研究は続報として発表することを検討している。従来知られていなかった分子レベルの作用機序が明らかになることで、新規治療薬開発の基盤になることが期待される。 アルツハイマー病プロジェクトについては、p47と小胞体ストレスならびに細胞死の関係性に焦点を当てた実験を進める。外部受託サービスを利用してCRISPR/Cas9システムを用いたp47ノックアウトマウスを作製し、これまでのRNA干渉によるノックダウン実験で見出した自然免疫応答や小胞体ストレス応答への影響を確認する。DNA刺激に対するインターフェロンなどの遺伝子発現誘導や小胞体ストレス応答遺伝子の発現誘導を確認するほか、刺激誘導性の細胞死を検証する。ストレス応答については神経系での機能解析を重視するため、培養細胞よりもマウス個体由来の神経細胞を用いる。アルツハイマー病のリスク因子の一つとしてDNAウイルス感染を提唱する報告があり、p47がDNAに対する自然免疫応答を制御する結果と関係性が期待される。
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