2014 Fiscal Year Annual Research Report
キャビテーション気泡の音響化学効果を利用した次世代超音波治療技術の開発
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14J05347
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
安田 惇 東北大学, 医工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | キャビテーション気泡制御 / 活性酸素の効率的生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
HIFU(High-Intensity Focused Ultrasound:高密度集束超音波)治療の中の、音響キャビテーション気泡の化学作用を利用した音響化学治療では、まず音響キャビテーション気泡によって化学反応を起こす音響化学活性物質を注射などの方法で体内に注入し、その物質を患部に堆積させる。そして、十分堆積した後に超音波によって患部にキャビテーション気泡を発生させることにより、そこで化学反応を起こし、それによってがんなどを治療する。ローズベンガル(Rose Bengal : RB)は音響化学活性物質のひとつであり、キャビテーション気泡により細胞毒性を持つ活性酸素を生成する。 この治療法では、まず気泡を患部に確実に生成する技術が必須である。しかし、RBは気泡生成の閾値を下げる働きがあり、気泡の制御性を落としてしまう可能性がある。そこで、まず、本年はRB存在下での気泡の制御法について検討したところ、RB存在下において、2つの周波数を足し合わせることによって正圧や負圧を強調した波形を作り出す2倍高調波によって、気泡の制御が可能であることを証明することができた。 さらに、より効率的な治療のため、効率的に活性酸素を生成するための超音波シークエンスの工夫を試みた。そこで、様々なシークエンスを用い、RB水溶液中でキャビテーション気泡を生成し、生成された活性酸素を定量化し生成効率を調べた。そこで、私は、活性酸素の効率化はキャビテーション気泡の効率的な生成だけでなく、生成した気泡を体積振動させることにより、気泡の存在を長時間維持することによって活性酸素の効率的な生成が可能になるのではないかと考えた。 結果として、高強度、短時間の超音波の超音波の照射の直後に、低強度、長時間の超音波を照射するという照射方法によって活性酸素の生成を大きく効率化することを示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度ではキャビテーション気泡の制御方法や活性酸素の効率化をすることができるシークエンスを検討した。 まず、気泡の制御方法の検討では、再現性を向上させることが困難であった。原因の一つに、気泡の制御に関与するパラメーターが、RBの濃度だけでなくRB溶液の製造方法に依存する場合も大きいということがあった。最も大きかったのが脱気度である。基本的に脱気度が高いほど気泡生成の閾値が下がり、制御が難しくなることは容易に想像できたが、RBによっても気泡生成の閾値の低下が起こるので、両者の相乗効果により気泡が予想よりはるかに敏感に生成されてしまった。また、RBや他の薬剤の調合方法よっても気泡の挙動が変化してしまい、このような理由から時間はかかったものの、最終的に再現性の高い試薬の製造プロセスの確立に成功した。 活性酸素の効率化においては基本的にRBの濃度が高いほど活性酸素の生成量は向上するが、濃度が高すぎると気泡の制御が困難となり、結果として、活性酸素の生成量は増加しても再現性も落ちることが問題となったが、適切な濃度を割り出すことができた。また、様々なシークエンスを用い、生成した気泡を体積振動させ維持させることが効率化に重要なことを証明することができた。ちなみに溶液の製造プロセスは、実際に臨床に応用する際のことも考慮しなくてはならない。例えば再現性や効率が高くてもあまりに濃度が高ければ生体に注入することができない。 27年度では交付申請書にて次の目的として掲げている活性酸素生成領域の3次元可視化を目指す。これは、ゲルなどに活性酸素によって変色する溶液を浸潤させ、それに超音波を照射して変色域を観察して行おうと考えているが、実現のためには、気泡の制御や、活性酸素生成量の再現性の高い溶液が必要不可欠であった。これらの課題は解決したので、当初の予定通り、27年度は3次元可視化に取り組むことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
前項で述べたように、27年度では、次の目的として掲げている活性酸素生成領域の3次元可視化を目指す。そのためには活性酸素によって変色をする水溶液が必要となるが、研究計画時ではヨウ化カリウムとでんぷんによるヨウ素でんぷん反応を用いようと考えていた。 ゲルには、RB、ヨウ化カリウム、でんぷんを含有させる必要があり、使用するゲルは、アクリルアミドゲルを考えているが、ゲルの作成の際に強い酸化剤を用いるため、ヨウ化カリウム由来のヨウ素イオンが酸化されてしまい、希望の変色を得られなくなってしまうことがわかった。寒天ゲルなどに置き換え試してみたが、キャビテーション気泡の器械的な破壊作用によってゲルそのものが破壊されてしまった。 そこで、私はアクリルアミドゲルの網目構造に注目した。この網目よりも小さな分子を含む水溶液であれば、容易にその水溶液をスポンジのように浸みこませることができる。方法としては、ゲルを水溶液の中に長時間浸すことによって浸みこませる。 RBとヨウ化カリウムの分子は十分に小さいので、この方法で浸みこませることができる。しかし、でんぷんは分子が大きく浸みこませるのが困難である。そこで、でんぷんは用いずに、ヨウ化カリウムが活性酸素により酸化され三ヨウ化物イオンになることによる変色を観察することにした。変色といっても波長355 nmでの変色であり、これは目で確認できない紫外領域である。そこで、紫外線光源と紫外線カメラや、特定の波長を通さない光学フィルターを使うことにより、355 nmでの変色を可視化する。今回は三次元分布の可視化が目的なので、カメラをゲルの周りで一回転させCTアルゴリズムによって三次元分布の可視化を目指す。予備実験にて、紫外線カメラにて検出可能なレベルの変色が見られた。さらに、RBとヨウ化カリウムのゲルへの浸潤も確認できたので、この方針にて研究を続けていく予定である。
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Research Products
(5 results)