2014 Fiscal Year Annual Research Report
反芻家畜におけるアディポカインとしてのケメリンの内分泌代謝と生産性への影響
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14J05480
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 裕 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 内分泌 / 代謝調節 / ケメリン / ウシ |
Outline of Annual Research Achievements |
ケモカインであるケメリンは末梢組織の糖代謝・脂質代謝を調節する作用を持つ。当研究室ではウシケメリンの一塩基多型が枝肉の脂肪交雑や脂肪酸組成に影響することを報告している。しかしウシにおけるケメリンの生理的作用機序は明らかになっていない。本研究では以下1~3のテーマを設定し、ウシにおけるケメリンを中心とした代謝調節機構の解明を目指した。 1、培養し脂肪細胞と肝臓細胞におけるケメリンによる糖・脂質代謝の調節作用の解明:マウス肝臓細胞においてケメリンは脂質分解・脂肪酸酸化やコレステロール合成経路の遺伝子発現を上昇させた。ウシ肝臓細胞において、ケメリンは糖新生を調節することが示唆された。しかし、成熟脂肪細胞において顕著な作用は無かった。ケメリンは短期的作用として、主に肝臓の糖代謝と脂質代謝を調節することが示唆された。 2、ケメリン遺伝子発現を調節するシグナル伝達系と転写因子の解析:ウシ肝臓細胞において、インスリンおよびプロピオン酸がケメリンの発現調節作用を持つことが明らかになった。さらに離乳の前後では細胞の反応性に違いがみられた。また、マウスの培養肝臓細胞において、PPARgなど糖代謝や脂質代謝に関連する転写因子がケメリン発現を調節することが明らかになった。 3、ウシ血中ケメリン濃度測定のためのELISA系の確立:技術的な問題により血中ケメリン濃度測定系はELISA系の確立できていないが、最終的な条件調節を行っている。代替策としてウェスタンブロットによりケメリン産生器官におけるタンパク質発現量を解析した。子牛の肝臓におけるケメリン発現量は離乳後に低下した。また、離乳後の濃厚飼料給餌により肝臓のケメリン発現量が上昇した。 以上の結果から、ウシにおいてケメリンは離乳や濃厚飼料多給といった体内エネルギーバランスの変化によりその発現量が制御され、肝臓の糖代謝・脂質代謝を制御することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画として、1、培養した脂肪細胞と肝臓細胞におけるケメリンによる糖・脂質代謝の調節作用の解明、2、ケメリン遺伝子発現を調節するシグナル伝達系と転写因子の解析、3、ウシ血中ケメリン濃度測定のためのELISA系の確立を設定した。 1、ウシとマウスの脂肪細胞と肝臓細胞の培養系を確立し、ケメリンの代謝調節作用の検討を行った。当初の予定通り、それぞれの培養モデルにおけるケメリン刺激実験を行い、糖代謝・脂質代謝経路の各遺伝子発現の解析を行うことができた。また、培地中の代謝産物量など生化学的評価も行うことができた。 2、脂肪細胞と肝臓細胞の培養系を用い、細胞レベルでのケメリン発現調節機構の検討を行った。既に解析していた転写因子結合予想領域を考慮し、各種のアゴニスト・アンタゴニストによる発現調節作用を解析した。マウス肝臓細胞では、ケメリンの発現を強力にコントロールする転写因子を発見し、EMSAによりプロモーター領域への結合も確認した。ウシの培養系では予測された転写因子はケメリン発現調節に関与しなかったが、インスリンとプロピオン酸による発現調節作用を発見した。 3、ウシケメリンELISA測定系の確立を行っている。特異的抗体および組換タンパク質はすでに作出していたが、組換タンパク質に問題があったため、新しいタンパク質発現系を確立した。このため、研究進行に若干の遅れが生じている。代わりに、ケメリン産生組織におけるタンパク質発現はウェスタンブロット法により解析しており、栄養状態などによりタンパク質発現が変化することが判明している。 全体として本年度の課題は、①および②が予定通りに進行した。③については問題が発生したため若干の遅れが生じているが、代替の実験から新たなる発見があった。来年度の研究につながる知見が得られたと思われ、概ね期待通りに研究が進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により細胞・組織レベルにおけるケメリンの発現・分泌調節機構と代謝調節作用が明らかになった。ケメリンは離乳や濃厚飼料給餌による体内のエネルギーバランスの変化により発現量が変化し、肝臓の糖代謝や脂質代謝を調節している可能性がある。しかしながら、生体内における生理的作用や分泌動態は検討できていない。従って、以下のように今後の研究を進行させる。 1、ウシにおけるケメリン投与による糖脂質代謝への作用の検討:本年度において作製した組換ウシケメリンをウシに投与し、血液および肝臓組織のサンプリングを行う。血液中の脂質等の代謝産物濃度の測定や肝臓における脂質代謝関連遺伝子発現を解析し、ケメリンの生体内の代謝調節作用を検討する。また、ウシにおける実験は施設の問題で実施が遅れる可能性があるので、マウスにおける投与実験も並行して行い、ケメリンの生理的作用の基礎データを収集する。 2、離乳・育成期子牛のケメリンの組織発現量および血中ケメリン濃度のモニタリング:ケメリンの組織発現は本年度すでに解析を終えている。従って、本年度の研究に引き続き、速やかにウシケメリンELISA系の確立を目指す。現状のELISAは信頼性の低いので、血液精製カラムを用いたウェスタンブロットによる血中ケメリンの定量も同時に検討する。 3、ケメリン遺伝子発現を調節するシグナル伝達系と転写因子の解析:本年度の培養細胞における研究から、ケメリンの遺伝子発現を強力に調節する転写因子を発見している。この転写因子は肝臓の糖代謝や脂質代謝系を調節することが知られているが、生体内におけるケメリン発現調節への関与は確認できていない。ChIPアッセイを用い、生体内のエネルギー状態の変化によるケメリンの発現調節において、この転写因子の関与を検討する。また、ケメリン発現を調節する新たな転写因子の検討も引き続き行う。
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Research Products
(4 results)