2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J05483
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂水 貴司 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 日本漢字音 / 位相 / 清原宣賢 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.清原宣賢加点本における位相差に関する研究発表 京都大学文学部で開催された訓点語学会において、「室町時代の仮名点資料とヲコト点資料における漢字音の相違―清原宣賢加点『標題徐状元補註蒙求』を資料として―」と題した口頭発表を行った。これは、宣賢書写による『標題徐状元補註蒙求』二本を比較し、仮名点資料と比較してヲコト点資料の方が、1)同一部分で漢音形を選択する割合が高いこと、2)全濁上声の去声化を修正し、上声点を加点する割合が高いこと、3)軽音節非全濁上声字において去声化が見られないこと、4)「袍」字の声調において、韻書に依拠した平声点が差されていることを指摘した。その上で、識語より、講義に使用する資料にヲコト点資料が多いことを指摘し、講義の場を想定するか否かによって訓点が異なっており、字音点にも違いが生ずる、と結論づけた。 2.宣賢加点本に基づく言語変化に関する論考 坂水貴司「清原宣賢と清原枝賢の字音点の相違について―『論語』『中庸章句』を資料として―」(『広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部(文化教育開発関連領域)』第64号 2015年12月、広島大学大学院教育学研究科)では、清原宣賢加点本の字音点と、宣賢の孫である清原枝賢加点本の字音点とを比較して、訓点資料における変化について調査した。その結果、宣賢加点本と比較し、枝賢加点本では宣賢加点本よりも漢音形の衰退が著しいことや、いわゆる「四つ仮名」のうち、ジ・ヂが合流していること、「アウ」連母音が「ワウ」と変化していることなどを指摘した。 3.資料収集・データ入力 原本調査および原本複写、公刊された複製本やインターネット上に公開されている電子画像により、資料を収集した。多くの資料が字音資料として利用可能な状況にある。今年度は上述の資料の整備によって、訓点資料に加え、抄物および字書・辞書類の字音資料を大幅に拡大することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた通り、同一人物加点の仮名点資料とヲコト点資料の比較をし、それに関する口頭発表を行うことができた。これは、同一文体内における比較で、ミクロな視点での比較であった。また、同一文体における、世代の違う一個人の加点本との比較をも行うことで、宣賢がどのような言語状況の中に生きていたのか、把握することができた。本研究においてはデータの量が極めて重要である。そのため、本年度は多くデータを収集することに務めた。本年度は、漢文訓読資料のみならず、抄物や字書、従来あまり活用されてこなかった神道資料などのデータも追加することができたので、次年度に向けての基盤ができたと考えている。以上の点で、本研究は予定通り進展したと考える。 その一方、データの拡張に集中したために、多くの論考を行うことはできなかった。たとえば、データの不足に起因し、異なる文体間(たとえば、訓点資料と抄物など)での比較をなしえていない。データ不足はデータの追加によって改善されたと考えられるものの、今年度の段階では、当初の予定を超える進展は見ていない。 以上より、本研究は予定通りの進展をしたものの、予定以上の進展をすることができなった。よって本研究はおおむね順調に進展している、と言えるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度にむけて、今年度ではデータを多く追加することができた。このデータを利用して、次のような計画を考えている。 次年度は、データの新たな収集よりも、集めたデータのまとめに集中する。収集したデータを まず、今年度収集したデータを分紐分韻表の形にまとめる。分紐分韻表にまとめることで、日本漢字音研究において蓄積のある平安鎌倉時代の資料と比較することが可能になる。 分紐分韻表によるデータの纏めに基づいて、次年度は文体間のマクロな比較を行う予定である。具体的には、訓点資料とその他の資料との比較によって、学問的な資料とその他の資料との比較を行うことが出来る。比較結果によって、それぞれの資料の位置づけは変わるかもしれない。以上のようなデータのまとめと比較に基づいて、論文等による発表を計画している。 計画の変更として、データの纏め方において次のような変更を考えている。以前は、資料ごとの分紐分韻表を作成しようと考えていた。そのため、単字を挙げるのではなく、語を単位として挙例しようと考えていた。しかし、現在は全資料の字音点を同一の分紐分韻表に纏めようと考えている。これにより、同じ表の中で複数の資料の実態を比較することができ、研究資料とする上で便利である。そのため、表には単字を単位として挙げることとなるであろう。しかし、表の用例はどのような場合でも原本に戻って確認する必要があるので、問題にはならないと考える。
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Research Products
(2 results)