2014 Fiscal Year Annual Research Report
キャラクター・アナリシスによるトマス・ピンチョンの小説研究
Project/Area Number |
14J05548
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 幸大 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | キャラクター / 自我 / ポストモダン / 自然主義 / トマス・ピンチョン / フランク・ノリス / ジャンル論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の26年度における成果は、(1)論文の執筆・掲載と(2)資料の収集・整理の2点に大きく分類される。 (1)東京大学英文研究室「ストラータ同人会」が発行する『ストラータ』(28号、2015年1月23日)に『自然主義の臨界とユートピア――フランク・ノリス『オクトパス』論』と題する論文を掲載した。 本論文において扱ったノリスは、本研究が主な研究対象としているトマス・ピンチョン研究者もしばしば言及する、世紀転換期アメリカにおける自然主義作家である。自然主義文学はしばしば文学作品を「実験室」にみたて、キャラクターを何らかの(しばしば苦しい)状況へと放り込み、そこでキャラクターの心理や行動に生じる現象を冷徹に観察するという手法を採用するため、いきおい、キャラクターの人間性や自由意志といったものは剥奪される傾向にあり、また彼らは多くの場合、死ぬ。しかし『オクトパス』は、そういったいかにも「自然主義的」プロットを内包しているものの、いっぽうでは「人間性」を無視するような「実験性」という自然主義の方法には、ある矛盾が含まれているのではないか、といった自己言及的な反省といったものが、あるキャラクターの視点を通して書き込まれている。そこで本作を「自然主義の臨界」であると見做すといった作品分析を行った。 以上のような「自然主義文学」は、時代は異なれど、キャラクターの人間性や主体性の扱いにおいてポストモダニズム文学と大きな共通点を持つ。それゆえ、キャラクター造形を通じてポストモダン(前期ピンチョン)からポスト・ポストモダン(後期ピンチョン)へと移行したピンチョンの作品分析という本研究の関心とパラレルなものと捉えられるのである。 (2)国内で入手可能な資料を取り寄せ、またニューヨーク大学・ハーヴァード大学に赴き入手困難となっている博士論文などのコピーを取得した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文の発表に関しては、ピンチョンの作品を直接扱うことはなかったものの、上記のような関心に基づき、おなじアメリカ文学において生じた相似的な現象を分析することで、今後の研究の糧となる成果と経験が得られ、また新たな問題意識や関心も養うことができた。
資料の収集・整理に関しては、国内で入手可能な研究書の収集・整理につとめ、また国外で入手すべき資料もある程度は収集し、国外で入手すべき残りの資料の整理も終え、またさらに国外でもアクセスの難しい資料の特定も済ませるなど、おおむね達成された。
|
Strategy for Future Research Activity |
資料の収集・整理に関しては、基本的には本年度と同様の作業を引き続き行う。 いっぽう、論文の執筆や学会発表に関しても、引き続き(1)ピンチョン研究(2)ポストモダニズム研究(3)ピンチョン/ポストモダニズム文学と比較が可能な対象の研究、を続ける。 また注記すべきこととして、2013年にピンチョンは新作長編(Bleeding Edge)を発表し、また2014年度にはピンチョン作品の初の映像化となる『インヒアレント・ヴァイス』が公開された(ポール・トーマス・アンダーソン監督、日本での公開は2015年)。これらに伴ってピンチョン研究の動向は現在非常に活発になっており、たとえば日本でも『ユリイカ』が2015年5月号でアンダーソン特集を組んだばかりである。こうした状況に鑑み、各種のシンポジウムや対談、あるいは各雑誌における大小の特集など、リアルタイムで更新されてゆく情報に気を配りつつ本研究の内容と方針も臨機応変に修正してゆく必要がある。
|
Research Products
(1 results)