2014 Fiscal Year Annual Research Report
セルロース結晶構造特性解析を基盤とした新規セルロース関連材料の分子設計研究
Project/Area Number |
14J05740
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
宇都 卓也 宮崎大学, 工学部, 特別研究員(PD) (60749084)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | セルロース結晶 / 分子鎖シート / 結晶モデル / セルロースナノチューブ / 密度汎関数理論法 / 分子動力学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロース多形の結晶構造データに基づいて、セルロース分子鎖が水素結合により連結された分子鎖シートモデルを構築し、密度汎関数理論(DFT)法により立体構造安定性を評価した。比較検討のために、結晶モデルの分子動力学(MD)計算を実施した。また、これらの研究を通して新規ナノ構造体の可能性を検討した。 その結果、セルロースI型分子鎖シートは実際やナノ結晶モデルで観察されるような右巻きのねじれ変形を示した。工業的にも興味深いⅡ型結晶構造については、隣接関係にある(010)面と(020)面に由来する分子鎖シートが互いに反対方向にねじれ変形した。Ⅱ型結晶モデルのMD計算では、変形方向がモデル形状に依存し、結晶構造中で、隣接分子鎖シートがそれぞれ反対方向にねじれ変形しようとするストレスを内在していることが示唆された。一方、分子鎖が逆平行にパッキングしている(110)面由来シートはDFT計算で初期構造を大きく崩した。セルロースⅢⅠ型の結晶構造を構成する2種の分子鎖シートのDFT計算では、(1-10)シートはほぼ初期構造を維持した状態を維持し、(100)シートは完全に初期構造を崩した。これは、in situ結晶転移実験により提案されていた転移機構を支持する結果であった。これらの結果を総括すると、天然型結晶と同様に、Ⅱ型やⅢⅠ型もまた、特定分子鎖シートの積層で特徴づけられることが明らかとなった。 また、ⅢⅠ型(100)分子鎖シートは初期構造を完全に崩したが、更に計算を進めると自発的に巻き始め、最終的にチューブ形態となった。このチューブ状構造は、シート両端の親水基が閉じることで、疎水的性質が支配的となり、新たなセルロース高次構造となる可能性を提案した。予測されたセルロースチューブの対称性に基づいて、重合度や分子鎖数を拡張し、コンピュータ上で任意にデザインすることに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セルロース結晶構造を構成する分子鎖シートモデルのDFT計算により、結晶モデルの溶媒和MD計算だけでは顕在化しなかった分子鎖シートの形状変化を追跡することに成功し、セルロース結晶構造に関わる新たな解釈を提案した。また、分子鎖シートから派生したセルロースナノチューブの分子設計研究も順調に進行しており、現在、非極性溶媒中での安定性を検討中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
アンモニアやアミン類処理によるⅠ型⇒ⅢⅠ型結晶転移は、途中にアンモニアまたはアミン―セルロース複合体を経ることが知られ、それら複合体結晶構造が報告されている。平成27年度は、Ⅰ型→ⅢⅠ型結晶転移プロセスの一部として、複合体を出発構造としたアンモニアまたはアミン分子の離脱挙動のシミュレーションを実施し、ⅢⅠ型結晶構造形成を試みる。長時間MD計算では、実現が困難な場合は、マルチカノニカル法等の拡張アンサンブル計算の適用についても検討する。
|