2015 Fiscal Year Annual Research Report
セリン-脂質代謝軸の恒常性破綻による病態発症の分子基盤解明
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14J05809
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
江崎 加代子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | セリン / スフィンゴ脂質 / 脂質生化学 / 分子生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜を構成する機能脂質であるスフィンゴ脂質はセリンパルミトイル転移酵素(SPT)によるL-セリンとパルミトイルCoAの縮合反応から開始して合成される。近年、SPTの遺伝子突然変異による基質特異性の変化によって、L-セリンではなくL-アラニンやグリシンと縮合した神経毒性を持つスフィンゴ脂質群(1-deoxy-sphingolipids: doxSL)が産生されることが報告された。私は、正常SPTでもアラニン/セリン比の上昇によるアミノ酸インバランスによりdoxSLが合成されることを見いだした(Esaki et al, JBC, 2015)。 セリン合成酵素Phgdh KOマウス胎児由来の繊維芽細胞(KO-MEF)をL-セリン欠乏条件で培養すると細胞内doxSL濃度が上昇すると共に脂肪滴の形成も観察されるが、その脂肪体にdoxSLが蓄積していることを明らかにした。また、脂肪体に蓄積しているdoxSLの分子種を解析したところ、塩基型の分子よりも塩基に脂肪酸が付加した分子の方が合成量が顕著に増加していた。そこで塩基型と脂肪酸付加型のdoxSLの毒性比較を行ったところ、塩基型が有意に毒性が高いことが明らかになった。 さらに、SPTの変異がなくともアラニン/セリン比の上昇で細胞毒性を持つdoxSL産生が誘導されるため、アラニン/セリン比が上昇する疾患の病態分子メカニズムにdoxSLが関与する可能性を考えている。一部の精神疾患患者では血中セリン濃度の低下が報告されていることから、現在、doxSLの精神疾患への関与を検討しており、精神疾患患者由来の死後脳、血液、iPS細胞等におけるdoxSL産生を検討する準備を進めている。それぞれのソースの予備検討用のサンプルについて脂質抽出法の最適化、およびdoxSLの検出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Phgdh KO-MEFをL-セリン欠乏条件で培養すると、細胞内に層状の構造を持つ脂肪体が観察された。その脂肪体をショ糖密度勾配遠心法によって分離して脂質分析を行った。脂肪酸が付加したセラミド型の分子種についてはショ糖密度勾配遠心の後に二層分配で脂質を抽出し、有機層を回収することで得た。塩基型の分子種は超遠心分離にて得た脂肪体から1層抽出にて脂質を抽出し、固相抽出で塩などを除去してから有機溶媒を用いて脂質を回収した。脂肪体から抽出した脂質を分析したところ、脂肪体に蓄積したdoxSLは塩基型の分子種よりもセラミド型の分子種の方が合成量が顕著に増加していることが明らかになった。これらの分子種の毒性の違いを明らかにするため、大阪大学との共同研究により有機合成していただいた塩基型と脂肪酸付加型のdoxSLの毒性比較を行った。すると、塩基型の1-デオキシスフィンガニン(doxSA)とdoxSAに脂肪酸が付加した1-デオキシジヒドロセラミド(doxDHCer)の比較では、塩基型doxSAが有意に毒性が高いことが明らかになった。このことから、セリン欠乏で合成されたdoxSLは、より毒性が低く疎水性の高い脂肪酸付加型で脂肪体に蓄積され、細胞毒性が無毒化されている可能性が示唆された。 精神疾患患者由来の死後脳、血液、iPS細胞等におけるdoxSL産生を明らかにするため、血液については採血条件も検討し、予備検討用のそれぞれのサンプルを用いて脂質抽出法の最適化を行った。iPS細胞については、健常者の血液から末梢Tリンパ球を分離し、センダイウイルスを用いて初期化因子を導入してiPS細胞を樹立した。iPS細胞を神経幹細胞へと分化させた後、回収して脂質を抽出した。それぞれのソースについて、doxSLの検出に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
塩基型と脂肪酸付加型のdoxSLの毒性比較については、doxSAとdoxDHCerだけの比較ではなく、今後は塩基型の1-デオキシスフィンゴシン(doxSO)とdoxSOに脂肪酸が付加した1-デオキシセラミド(doxCer)の比較、およびdoxSAとdoxSOの毒性比較を行う予定である。これまで塩基型と脂肪酸付加型の毒性比較および様々な塩基型分子種の毒性比較は行われていなかったため、doxSLの毒性および代謝メカニズム研究に重要な情報が得られると考えられる。 doxSLが細胞内の脂肪体に蓄積していることを明らかにしたが、doxSLの他オルガネラへの関与は不明である。そこでdoxSLの合成が顕著に促進されるアラニン添加条件下での培養の後細胞を回収し、doxSLの細胞局在を明らかにする予定である。具体的には核、小胞体、ミトコンドリア、リソソーム、細胞膜、細胞質を超遠心分離で分画し、オルガネラ分画の純度は各オルガネラのマーカーを用いて確認する。その後、分画ごとのdoxSL濃度を比較し、分子種による局在の違いなども明らかにする。さらに、安定同位体標識アミノ酸を用いて安定同位体標識doxSLを細胞に産生させ、時間経過によるdoxSL代謝変化を検討する。 予備検討用の精神疾患死後脳と健常者血液を用いて、最適な脂質抽出法の確立、さらに死後脳および血中のdoxSLの存在を確認した。そこで、次年度ではヒトの精神疾患患者の死後脳(前頭葉領域)および末梢血についてdoxSLの定量を行う。また、末梢血については分画(血漿、血小板、リンパ球、赤血球膜など)についてさらなる検討を行う。iPS細胞については、研究室が保有する患者由来iPS細胞株および必要に応じて樹立数を増やして実験に用い、さらにiPS細胞を神経幹細胞に分化させてdoxSLの産生を調べる。
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Remarks |
九州大学のプレスリリースである。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Adaptive response tol-serine deficiency is mediated by p38 MAPK activation via 1-deoxysphinganine in normal fibroblasts2016
Author(s)
Sayano T, Kawano Y, Kusada W, Arimoto Y, Esaki K, Hamano M, Udono M, Katakura Y, Ogawa T, Kato H, Hirabayashi Y, Furuya S.
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Journal Title
FEBS Open Bio
Volume: 6
Pages: 303-316
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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