2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J05886
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
加藤 智佐都 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ポリオキソメタレート / 磁気挙動 / プレイスラー型 / ドーソン型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は第一段階として各種ランタノイドイオンを内包したリング状POMの合成を行った。原料としてナトリウムイオンを内包したプレイスラー型POMとランタノイド硝酸塩を用いて現時点でサマリウムイオン、ユーロピウム、イオンガドリニウムイオン、ジスプロシウムイオンを内包したプレイスラー型POMの合成に成功している。それぞれ透明結晶として得られ、単結晶X線構造解析を行った。また、各結晶についてはSQUID磁束計を用いた磁化測定を完了しており、サマリウムイオンを内包した系とガドリニウムイオンを内包した系では常磁性的な挙動を、ユーロピウムイオンを内包した系では非磁性的な挙動を示すことが分かった。また、ジスプロシウムイオンを内包した系では磁化の磁場依存測定において強磁性的な挙動が観測された。この分子は単分子磁石としてふるまうことが報告されていることから、それに由来する挙動であると考えられる。 さらに申請者は今年度の5月末から8月末の3ヵ月間、グラスゴー大学Leroy Cronin教授の研究室を訪問し研究を行った。Cronin教授はPOM分野における世界的権威であり、新規POM合成やPOM分野の物性開拓についての研究指導を受けた。ヨウ素を骨格内に取り込んだドーソン型POMは、骨格の中心ではなく上下どちらかに偏ってヨウ素イオンが存在していることから電場印加によってヨウ素イオンの分子内移動が期待できる。この分子の合成方法は同研究グループのDe-Liang Long氏によってすでに報告されているものの、申請者の研究グループでは得られなかった。そこで、論文を執筆した本人から直接合成指導を受け、論文には書いていないテクニックを学ぶことで目的物の合成を目指した。その結果、ヨウ素イオンを含むドーソン型POMの単結晶を得ることができ、単結晶X線構造解析から見積もった格子定数から、目的物が得られたことを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在取り組んでいる研究は、単一分子内でのイオン移動を利用した新規誘電体の合成と物性評価に関するもので、合成部分は既に完了している。また、物性評価に関してもバルクでの評価を既に終えており、当初の狙い通りの結果を得ている。 合成部分としては、本年度は主に各種ランタノイドイオンを内包したプレイスラー型POMの合成を行った。得られた各結晶について単結晶X線構造解析および磁化測定を行い、目的物が得られていることを確認した。これらの化合物は、現在ターゲットとしているテルビウムイオンを内包した系とほぼ同じ結晶構造を示していることから、移動イオンの違いによる挙動を観測することで、結晶内イオン移動の機構解明につながる知見を得ることができると考えられる。また、本年度は同様にイオン移動が期待できる化合物として、1つのヨウ素イオンを取り込んだIO3-ドーソン型POMの合成に成功している。この化合物はカプセル状のドーソン型という骨格を持つPOM分子の内部にヨウ素イオンが取り込まれた形状をしており、ヨウ素イオンがカプセル骨格内を移動することができると考えられる。 また、物性評価については誘電率の温度依存測定やIRスペクトルの温度依存測定、温度ごとの分極の電場依存測定(P-E測定)を完了している。特にP-E測定については、テルビウムイオンを内包したプレイスラー型POMにおいて、イオンが停止し始めると見積もられた150K付近でのみP-E曲線の開き(ヒステリシスループ)が観測され、それ以上およびそれ以下の温度では常誘電的な(直線的な)挙動が観測された。 本年度は合成、物性評価ともに当初の計画通り進行している。次年度はこれらをさらに詳細に解析することで、イオン移動機構の解明を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度ではまず、本年度で得られた各種ランタノイドイオンを内包したプレイスラー型POMおよびヨウ素イオンを内包したドーソン型POMについて、誘電率の損度依存測定やIRスペクトル測定等からイオン移動の有無について検証を行う予定である。これらの測定に用いる装置は研究室ですでに所有しており、速やかに結果が得られると期待できる。また、遷移金属イオンを内包したプレイスラー型POMの合成も試み、目的物が得られた場合は同様の測定からイオン移動について検証を行う。得られた結果より、移動するイオンの種類や価数、外部の骨格の違いによる挙動変化を解析し、結晶内局所イオン移動の機構解明を目指す。 さらに、結晶内局所イオン移動に伴う物性の検証として強誘電体に見られるような焦電性の測定を試みる。具体的には試料に電極を貼り、電圧を印加しながら温度を下げたのちに外部電場を切り、温度を上昇させながら電流を測定することで、焦電測定を行う予定である。これに用いるソースメータやクライオスタット等の装置についても研究室で所有しているものを使用する予定である。また、大阪大学 赤木暢助教と共同でパルス強磁場を用いた磁場中誘電測定を行い、磁場によるイオン位置の制御の可否を検証する。
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Research Products
(9 results)