2015 Fiscal Year Annual Research Report
スピントランスファートルクを用いた磁気ソリトンの励起とその干渉性に関する研究
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14J05944
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 奈々 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | スピン波 / スピントランスファートルク / 磁気ソリトン / 強磁性金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
励起電圧に対するスピン波の非線形応答の一つである磁気ソリトンは、進行に伴うエネルギー散逸がないため、情報伝達への応用が期待されている。私は、局所的に磁化にトルクを与えることで、従来のアンテナによる磁気ソリトン形成よりも効率よく磁気ソリトンを励起できると考え、磁化と偏極電流の間に働くスピントランスファートルクを用いた磁気ソリトンの励起を目的としている。しかし、スピン波には非相反性や閉じ込め効果などの複雑な寄与があるため、こうした寄与を考慮した上でスピントランスファートルクのスピン波に対する効果を調べる必要がある。私はバックワードモードスピン波を用いて、スピントランスファートルクとスピン波の相互作用について調べた。 NiとFeの合金である強磁性金属パーマロイを線幅2 μm、膜厚190 nmの細線に加工した。細線長手方向に外部磁場を印加してバックワード配置とし、細線中にスピン波を励起した。細線中に偏極電流を印加し、偏極電流の電流密度に対するスピン波の共鳴周波数を、ベクトルネットワークアナライザーを用いて周波数領域で測定した。 スピン波の共鳴周波数は電流密度に依存して変化し、偏極電流を印加していない時と比べて、5×10^10 A/m^2の電流密度を印加したときに共鳴周波数が約200 MHzシフトした。この周波数シフトは、従来のスピントランスファートルクによるスピン波の周波数シフトの理論からは説明できないほど巨大であり、スピントランスファートルクの寄与とは別の寄与があることが示唆される。周波数シフトを巨大にする寄与として、強磁性細線に偏極電流を印加したことによって発生するエルステッド磁場の寄与が考えられる。エルステッド磁場が100 MHzオーダーの周波数シフトを引き起こすメカニズムについては今後検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バックワードモードスピン波に対して偏極電流によるスピン波の周波数シフトに成功した。しかし、周波数変調の要因はスピントランスファートルクだけでなく、エルステッド磁場の寄与が大きいことが分かった。スピントランスファートルクによる磁気ソリトン励起のためには、スピン波周波数シフトに対するスピントランスファートルクの寄与を他の寄与から分離して評価する必要がある。エルステッド磁場の寄与は、実験の前段階で予想していたメカニズムと異なるメカニズムで寄与しており、現在検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はエルステッド磁場による巨大周波数シフトのメカニズムを明らかにする。周波数シフトの外部磁場依存性、試料膜厚依存性などを調べ、エルステッド磁場の寄与を評価し、エルステッド磁場の寄与とスピントランスファートルクの寄与の分離を行う。 また、スピン波の波形の変化を調べるため、時間領域で測定を行う。時間領域測定用にスピン波励起・検出アンテナの形状を改良した試料を作製し、オシロスコープを用いてスピン波の波束を測定して、偏極電流の印加による波形の変化(振幅・波長)を調べる。
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