2015 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀ブルガリアの商港都市に関する社会史的・建築学的研究:都市空間と交易
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14J06280
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
早坂 由美子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 歴史学 / 建築学 / 東欧史 / 都市史 / ブルガリア / バルカン半島 / ドナウ川 / アドリア海 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度においては、以下の研究成果発表ならびに調査・研究を行った。 研究成果発表は以下の二つである。継続的に行ってきた19世紀ブルガリアの都市と交易に関する研究成果の一部を「ブルガリア正教徒商人による商業施設の建設と交易空間-19世紀のタルノヴォを事例として-」としてまとめ、『日本建築学会計画系論文集』に投稿し、掲載された。また、19世紀のドナウ川下流域および黒海の商港都市に関して、"In Transit: Balkan Trade Cities along the Danube and Black Sea"と題した学会発表をアメリカ建築史学会(Society of Architectural Histrians)第68回大会にて行った。 調査・研究は、主として以下の三つである。一つめはブルガリア国立図書館ブルガリア歴史アーカイブ部門における文書史料調査で(平成27年7月に実施)、19世紀のブルガリア正教徒商人のうち、ドナウ川の商港都市に拠点を置いて事業を展開した商人の文書史料の調査・収集を行った。二つめはバルカン半島側のアドリア海沿岸商港都市に関する都市調査で(平成27年7、8月に実施)、アドリア海沿岸の四カ国十都市で現地調査を行った。現地の歴史博物館等で情報・資料収集につとめ、港湾部と歴史的商業地区を中心とした都市形成・空間構成の調査・分析を行った。三つめは、ブルガリア国立ルセ文書館と同ソフィア文書館における文書史料調査で(平成28年2、3月に実施)、ルセ文書館においては19世紀ブルガリア正教徒自治組織文書の調査・収集を行った。ソフィア文書館においては19世紀末のソフィア市議会議事録に関する調査を行った。以上の調査から得られた資料等をもとに日本において研究作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、研究発表、現地調査ともにおおむね順調に進展した。 研究発表については、『日本建築学会計画系論文集』に19世紀のブルガリア正教徒商人と交易空間との関わりについて論じた論文を発表し、アメリカ建築史学会第68回大会において、19世紀のドナウ下流域と黒海の都市に関して研究発表を行うことができた。後者は、建築史の国際会議としては世界でも有数の規模であり、そのような場での発表経験、および数多くの欧米の建築史研究者との交流は非常に有益であった。 現地調査は夏期と冬期の二回に分けて行った。文献史料調査は、ブルガリア国立図書館、ブルガリア国立ルセ文書館、同ソフィア文書館において行い、19世紀のドナウ交易に携わり、特にドナウ下流域の都市に事業拠点を設けていた正教徒商人の商業関係文書を中心に調査・収集することができた。さらに19世紀ルセのブルガリア正教徒自治組織文書を調査し、そのなかから当時の徴税台帳や教会文書などを収集した。これらの調査から、本研究課題の核となる文書史料を入手することができた。 都市・建築調査はルセとアドリア海沿岸諸都市において行った。本研究課題の中心的研究対象であるルセでは、現地での聞き取り調査から19世紀の建造と推定される隊商施設を三か所特定し、歴史的商業地区と合わせて写真撮影を行った。アドリア海沿岸諸都市では、基本都市構造と歴史的商業地区の空間構成を把握するために都市調査を行った。この調査からバルカン半島の歴史的商港都市の空間的な多様性を理解することができ、相互比較の視点を養うことができた。 以上のことから、平成27年度は順調に研究課題を遂行することができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も海外での文献・絵図史料調査と都市・建築調査を軸に研究を進める。 文献史料調査はブルガリア国立図書館、ブルガリア国立中央文書館、同ルセ文書館、同ソフィア文書館において行う。継続的に調査・収集を行っている19世紀のブルガリア正教徒商人に関する文書史料、ならびに19世紀ブルガリア正教徒自治組織に関する文書史料の他、19世紀末のルセとソフィアにおける近代都市計画実施時の土地・建物の接収に関する行政文書を調査・収集する。また、ロンドン大学スラヴ・東欧研究学院において16世紀から19世紀のバルカン半島に関する旅行記の調査・収集を行う。 絵図史料に関しては、過去の地籍図、古地図、写真の調査・複写をブルガリア国立軍事博物館、ソフィア歴史博物館、ルセ歴史博物館、ロンドン大学スラヴ・東欧研究学院にて行う。 都市・建築調査はルセを中心に行う。平成27年度に行った現地調査で特定した19世紀の隊商施設に関して、図面の複写あるいは実測調査と図面作成を行う。さらに、文献・絵図史料の分析から得られた19世紀の港湾施設、商業地区、商業施設に関する情報を現在の実際の都市空間と照合しながら地割、街区、現存建造物の調査を行う。また、オスマン帝国統治下で形成された歴史的商業地区のモデルとして重要なボスニア・ヘルツェゴビナのサラエヴォで都市・建築の調査を行う。 以上の文献・絵図史料調査ならびに都市・建築調査から得られる結果を総合的に分析し、19世紀ドナウ下流域最大の商港都市であったルセに関して、19世紀当時における交易・商業活動の実態の解明、都市空間の復元的考察を行う。本研究課題の成果は日本建築学会計画系論文集に学術論文として投稿する他、史学系学術誌への投稿も予定しており、国内・国外の学会においても積極的に発表を行っていきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)