2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J06352
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松本 彩花 北海道大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 政治思想史 / カール・シュミット / デモクラシー / 主権論 / ヴァイマル共和国 / ドイツ公法学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第二帝政末期からヴァイマル共和国中期までの時期におけるカール・シュミットの政治思想の形成過程を、歴史的文脈に位置づけつつ再構成することを目的とする。本年度は昨年度における研究を発展させて次の作業を行った。 第一に、昨年度研究の結果設定した、1920年代初頭におけるシュミットの民主主義観の変化、すなわち人民主権に対する評価の転換を説明するという課題に取り組んだ。そのためにヴェーバー新全集で年代別に再編集された『経済と社会』を講読して指導者民主政の構想経緯を内在的に理解した上で、カリスマ的支配類型がシュミットの民主主義観に与えた影響を検討した。教会法学者R. ゾームのカリスマ論、およびこれをヴェーバーが「反権威主義的・民主主義的」に再解釈することで構想した人民投票的指導者民主政という新たな民主主義のモデルの継承関係をテキストに即して検証した。 第二に、ノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館に所蔵されたシュミットの遺稿を調査し、未公刊の書簡やヴェーバー関連蔵書への書き込み等から、シュミットにおけるヴェーバー受容の一端を解明した。 第三に、シュミットと1920年代ボン大学において同僚であった神学者E. ペテルゾンとの関係に着目し、ペテルゾンの喝采概念がシュミットの民主主義論に対して与えた影響を検討した。 その他、最近公表された第一次大戦中の日記や手記、シュミットが従事した軍務内容に係る新資料を利用し、最初期以来の思想的展開を時代状況に位置づけて再構成することを試みた。 以上の研究成果をまとめ、現在執筆中の博士論文の序論を執筆し、事前審査論文として北海道大学大学院法学研究科に提出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、2015年度の研究目標はおおむね達成したと言える。ノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館に赴いてシュミットの遺稿を調査し、研究遂行上必要となる資料を収集することができた。これら資料を利用することで、本年度の課題として設定した、1920年代前半のシュミットにおけるヴェーバー受容と民主主義観の変遷過程を一定程度解明することができた。また、ゾーム、ヴェーバー、ペテルゾン、ケルゼンといった同時代の思想家からの影響を明らかにし、博士論文の全体構想を立て序論を執筆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果、シュミットの民主主義論の形成過程を明らかにするためには、政治神学的方法というシュミット独自の方法論を解明する必要があることがわかった。シュミットの政治神学とは「概念の社会学的方法論」として呈示されており、シュミットの「理論を貫く赤い糸」として注目されながらも、従来の研究においてはその起源が究明されてこなかった。シュミットの著作においてこの方法論の萌芽は1910年代以来見出されるが、同時期にヴィーン学派の法学者H. ケルゼンもまた「神学と国法学とをアナロジカルに認識する」という同様の方法論を用いていた(「国家不法について」1913年)。両者の関係を検証した最近の研究論文(V. Neumann, 2008)においては、1910年代における政治神学をめぐる両者の関係は考察対象に含まれていない。そこで本研究においては、最初期における政治神学をめぐるシュミットとケルゼンの関係を手掛かりとして、その起源を究明することを来年度の課題として設定した。この課題を達成するとともに、第一次大戦中とヴァイマル共和国中期までの時代体験と思想形成を再構成する上で不可欠となる新資料を引き続き利用し、博士論文本論を執筆する。
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Research Products
(1 results)