2015 Fiscal Year Annual Research Report
教員の勤務負担の歴史的起源-日米英独の教員の労働法制度の成立過程に着目して-
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14J06357
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
神林 寿幸 東北大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 教員の労働時間 / 教員の業務負担 / 周辺的な職務 / 生徒指導 / 特別活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究成果は、以下の2点があげられる。 第1に、前年度に引き続き、現代日本における教員に負担をもたらす業務は何かということの解明である。ここでは2つのデータについて分析を行った。一つは「OECD第2回国際教員指導環境調査」である。当該データを使用して、他国と比較して日本では、どの業務が教員に過重な負担をもたらしているのかを分析した。その結果、日本以外の国では、進路指導等の個別の生徒指導に費やす時間が長い教員ほど、業務満足度が高かったが、日本では逆に業務満足度が低かった。通説では教員は生徒指導に対してはやりがいを感じており、過重な負担を感じないとされてきた。しかし本分析結果を踏まえると、日本の教員にとって生徒指導も、過重な負担をもたしうると推察される。もう一方は「2006年度文部科学省教員勤務実態調査」である。当該データを使用して、保護者対応等の「周辺的な職務」と、生徒指導等の教員の本来業務のどちらの方が、単位時間あたりに教員の業務負担感増大に与える効果(労働強度)が大きいのかについて検証した。その結果、保護者対応と同程度、あるいはそれ以上に、進路指導等の授業以外の課外活動による労働強度が大きく、本来業務の中にも、教員に過重な業務負担をもたらすものがあることが確認された。 第2に、海外での教員の業務負担をめぐる政策動向の整理・把握である。とりわけ日本と同様に、教員の業務負担が政策課題となっているイギリスに着目した。関連資料を収集し、イギリスで実施されている学校評価の準備(資料作成など)が、多くの教員にとって負担となっており、授業準備等に十分な時間が確保できないことが政策文書で報告されており、イギリスでも、日本の教員の業務負担をめぐる通説と同様の議論が展開されていることが把握できた。今後、日英での教員の業務負担に関する議論の比較検討むけた、基本資料を収集することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以上のように、本年度は「TALIS2013」という国際データを用いた他国との比較から、日本では、個別の生徒指導に伴う教員の業務負担が大きいという特徴を明らかにすることができた。またイギリスでの教員の業務負担に関する資料も入手することができ、今後日本と海外の間で、教員業務に関する政策を比較検討するための資料が集まった点で、当初の計画通り研究が進展している。 しかし一方で、TALIS2013には、本研究が検討対象とするドイツが調査参加国に入っていなかった。さらに管見の限りでは、ドイツ政府による全国規模の教員の労働時間調査の報告書もなく、ドイツの教員の労働時間に関する分析データ構築が遅れている。これらの点を総合的に判断して、以上のような自己評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、次の2点があげられる。第1に、ドイツの教員の労働時間の実態に関するデータを引き続き探索し、これを組み込んで教員の業務負担を規定する要因について、国際比較を行うことである。ただし場合によっては、ドイツの教員の労働時間に関するデータが収集できない場合も考えられる。その場合には、現時点で入手している、同じドイツ語圏であるスイスの教員の労働時間調査データを比較分析に組み込むことも考えている。 第2に、イギリス以外のアメリカ、ドイツについて、教員業務に関する政策資料を収集することである。当初の想定以上に、各国の教員の労働時間の実態を把握することに時間がかかってしまった。次年度で本研究期間が終了するが、当初計画していた教員の業務内容をめぐる政策過程を歴史的に検討するところまで達成できないかもしれない。しかし少なくとも、本研究が比較検討対象に設定した日米英独各国について、教員業務の内容、さらにこれと関連する教員が担う教育活動や学校教育の目標が、法令やカリキュラム上でどのように規定されているのかを把握し、その違いが実際の教員の労働時間や働き方にどのような影響を及ぼしているかまでは、検討したい。
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Research Products
(5 results)