2014 Fiscal Year Annual Research Report
電子輻射減衰とイオン相対論領域が共存する極限レーザー生成プラズマの学理と応用
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14J06405
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩田 夏弥 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 超高強度レーザープラズマ相互作用 / 輻射減衰 / クラスター媒質 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、集光強度が10の22-24乗W/cm2 に及ぶ超高強度レーザーの開発が進展している。この領域におけるレーザー物質相互作用では、相対論的電子からの高強度輻射発生とそれに伴う電子運動の輻射減衰が支配的となり、またイオンも相対論的速度に加速されることから、これまでと異なる非線形性を有する新しいプラズマ状態が実現されると考えられる。 本研究では、輻射減衰-イオン相対論共存領域と位置付けた10の22-25乗W/cm2 の強度領域で生成される極限輻射プラズマの特性を明らかにすることを目的とした理論・シミュレーション研究を行っている。 本年度は始めに、報告者(岩田)がこれまで開発に携わってきたプラズマ粒子計算コード(EPIC3D)を基礎として、輻射減衰-イオン相対論共存領域におけるレーザープラズマ相互作用をスーパーコンピュータを用いた数値計算によって再現するためのコード開発を行った。特に、対象とするレーザー強度領域で重要となる輻射減衰計算の高精度化を行い、輻射の解析に重要な粒子軌道追跡や輻射減衰の空間分布測定を行うルーチンを開発した。これらは大規模実験装置の開発研究に相当し、数値計算科学の進展に資するものである。 次に、開発したコードに基づき、輻射減衰領域におけるレーザー物質相互作用の数値実験を行った。ここでは、物質状態・構造が相互作用を決定する重要な要因になるとの着想に基づき、固体とガスの中間の物質特性を持つクラスター媒質を設定した大規模数値計算を実施した。結果、クラスター媒質ではレーザーから輻射へのエネルギー変換率が固体薄膜に比べて高くなることや、レーザー場強度に依存して高い輻射率を示すクラスター半径が存在することが示された。本成果は、輻射および輻射減衰効果に対するクラスター媒質構造の重要性を新しく示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では具体的な課題を1.数値実験実施のためのシミュレーションコードの開発、2.数値実験の実施による極限輻射プラズマの特性の理解とその内部での基礎的な物理過程の解明、3.高輝度量子ビーム生成を目指した応用研究、と設定して研究を進めており、本年度は課題1.および2.を進めることができた。 具体的には、課題1.において輻射減衰計算ルーチンの高精度化および整備を行い、さらに高強度輻射の解析に重要となる粒子軌道追跡や輻射減衰の空間分布測定を行うルーチンを開発した。大規模実験装置の開発に相当する本作業により、10の22乗W/cm2 を上回るレーザー物質相互作用において重要となる輻射減衰を取り入れたレーザー物質相互作用をスーパーコンピュータを用いて再現する数値実験の基盤が整えられた。また、大規模数値実験に向けたテスト計算を通して、輻射されるエネルギー量や輻射減衰効果のレーザー場強度およびプラズマ密度への依存性に関する基礎的な知見を得ることができた。また、本開発の成果を本報告書項目13. 研究発表に挙げたプロシーディング論文に報告した。 課題2.では、開発したコードに基づき、10の22乗W/cm2 を上回るレーザー強度領域において、レーザー物質相互作用に関する大規模数値シミュレーションを行い、本研究で着目するクラスター媒質で輻射および輻射減衰の効果が重要になることを示す結果を得ることができた。この結果を、本報告書項目13. 研究発表に挙げた3件の学会、シンポジウムで報告し、3.高輝度量子ビーム生成を目指した応用研究 に繋がる議論を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度(平成26年度)は、輻射減衰が重要な役割を果たすレーザー強度領域(輻射減衰領域)におけるレーザー物質相互作用を再現する大規模並列計算コードを開発し、それを用いた大規模数値シミュレーションの結果から、クラスター媒質と高強度レーザー場との相互作用に関して基礎的な知見を得ることができた。 これを基に平成27年度は、物質状態、媒質構造の違いによる輻射量の差異、および輻射減衰が粒子加熱・加速に与える影響等について基礎物理の解明と理論モデルの構築を目指す。本課題を進めるに当たり、本年度に解析対象とした輻射減衰領域と比較してさらに高強度のイオン相対論領域では、電子と共にイオンも相対論的エネルギーに加速されることから、相互作用が質的に変化することが予想される。この領域では高精度の数値計算手法や輻射減衰計算モデルの再検討が必要となる可能性があるため、更なるコード開発も並行して行っていく必要があると考えている。 さらに、本研究課題は超高強度レーザー物質相互作用を利用した極限輻射プラズマ生成と高輝度量子ビーム発生等への応用に関する実験提案を目標に掲げており、この課題への展開方針として以下を検討している。 本研究では、物質の状態・構造に加え、構成原子種もまた超高強度領域におけるレーザー物質相互作用の決定に重要な役割を果たすと考えている。特に原子番号(Z)の大きい物質は、内核励起X線発生などの原子過程やTrident過程、Bethe-Heitler過程による電子陽電子対生成の観点から、超高強度レーザー領域における極限輻射プラズマ状態の実現や高エネルギー量子生成に重要となると考えられる。この着想に基づき、現在のクラスター媒質に着目した研究の発展として、キセノン、金などの高Z物質を想定した理論・シミュレーション解析を進めることを検討している。
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Research Products
(4 results)