2015 Fiscal Year Annual Research Report
がん微小環境における筋線維芽細胞の役割と分子機構の解明
Project/Area Number |
14J06412
|
Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
川崎 秀吉 山口大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 大腸癌 / がん微小環境 / 筋線維芽細胞 / 細胞遊走 / HB-EGF |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景・目的】がんの悪性化には,筋線維芽細胞などで構成されるがん細胞周囲の微小環境が重要であると考えられているが,その分子機構の詳細は明らかになっていない。本研究は,発症患者数の多い大腸癌をターゲットとして,その成長と悪性化における腸筋線維芽細胞(IMF)のがん微小環境としての役割とその分子機構を解明することを目的としている。具体的には,「がん細胞がIMFの増殖や遊走を制御して微小環境を維持し,維持されたIMFががんの悪性化に寄与している」という仮説を立て,本年度はがん細胞がIMFに与える影響について検討した。 【方法】実験には,マウスの結腸より単離したPrimary-IMFと我々が樹立したIMF細胞株LmcMFを用いた。また,がん細胞モデルとして,多くの大腸癌で活性型変異が認められるKRas遺伝子の活性型変異体(KRasV12)をマウス結腸上皮細胞株であるaMoC1細胞に安定発現させた細胞(KRasV12-aMoC1)を作成し使用した。 【結果・考察】KRasV12-aMoC1細胞の培養上清がIMFの増殖および遊走に与える影響を検討したところ,KRasV12-aMoC1細胞の培養上清はIMFの増殖には影響せず,遊走を促進した。この遊走促進作用の因子について検討したところ,KRasV12発現によりaMoC1細胞におけるヘパリン結合性上皮細胞成長因子(HB-EGF)の発現量が増加し,このHB-EGFがIMFの遊走を促進していることが明らかになった。また,LmcMFにおいても,KRasV12-aMoC1細胞の培養上清およびHB-EGFによって,Primary-IMFと同様の遊走促進作用が観察された。これらの結果から,KRasV12を発現したがん細胞は,HB-EGFを産生することでIMFを自身の近くに引き寄せ,がん微小環境を維持していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸癌の多くで変異が認められているKRas変異細胞が,筋線維芽細胞にどのような影響を与えるかを明らかにすることで,筋線維芽細胞の重要性を示すと共に,がん微小環境における筋線維芽細胞の役割を解明するための研究が順調に進展している。KRas遺伝子は様々ながん種においてその活性型の変異が認められていることから,本研究は大腸癌のみならずその他のがん種にも応用できる可能性を有している。また,その分子機構についての検討も進展しており,KRasV12発現細胞がHB-EGF産生を介して筋線維芽細胞の遊走を促進していることを明らかにした。KRasV12発現細胞は様々な成長因子等を産生していることから,多数ある候補因子の中から遊走促進物質としてHB-EGFを絞り込むことができたことは大きな進展である。また,IMF細胞株であるLmcMFにおいてPrimary-IMFと同様の反応性が確認できたことから,今後の研究に増殖活性の高いLmcMFを利用することが可能となり,HB-EGFを介したがん細胞と筋線維芽細胞の相互作用機構を効率的に検討することができる。今後はPrimary-IMFとLmcMFを適宜使い分けることで,HB-EGFがIMFの遊走を促進する分子機構を詳細に検討し,KRasV12発現細胞がIMFを制御するメカニズムを解明する。 平成27年度に遊走促進因子を特定できたこと,また,LmcMFの有用性を示したことから,平成28年度はさらに研究を加速させることが出来ると考えており,このことからも研究はおおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
HB-EGFは,ErbB受容体ファミリーのうちErbB1及びErbB4の2つの受容体のリガンドとして知られている。そこで,各ErbB受容体拮抗薬やshRNAによる受容体ノックダウンにより,各受容体のIMF遊走促進への関与を明らかにすると共に,その下流のシグナル伝達因子についてのウエスタンブロット等により分子生物学的な検討も進める。これらの検討には,本年度の研究においてPrimary-IMFと同様の反応性を示したLmcMFを用いることで効率的に進める。 申請者はすでに,IMFががん細胞の悪性化に寄与していることを証明するため,免疫不全マウス個体に,KRasV12-aMoC1とIMFを共移植するXenograftモデル実験を行うことで,KRasV12発現細胞の腫瘍形成能や浸潤・転移能にIMFが及ぼす作用についても検討を開始している。今後は,腫瘍形成能や浸潤・転移能へのHB-EGFの関与についても検討することで,がん細胞とIMFのHB-EGFを介した相互作用を明らかにする。 さらに,平成28年度はヒトIMFを用いた研究も行う予定である。現在,大腸癌患者の腫瘍部および非腫瘍部からIMFを単離しており,ヒトIMFにおいてもマウスと同様の反応が認められるかを明らかにすることで,HB-EGFの大腸癌治療標的としての可能性を検討していく予定である。 また,KRasV12を発現した大腸癌オルガノイドを作製し,IMFとの混合モデルを確立することでKRasV12発現がん細胞とIMFの相互作用についてより詳細な検討を行う。さらに,大腸癌患者由来がん細胞を用いたオルガノイドを作製し,ヒトの細胞を用いた大腸癌-IMF混合オルガノイドの作製も予定している。 このような研究を通して,マウス細胞だけでなくヒト細胞においてもがん微小環境におけるIMFの役割と分子機構を解明していく予定である。
|
Research Products
(4 results)