2014 Fiscal Year Annual Research Report
大気・海洋を中心とした生物地球化学的循環の解明:元素同位体および化学種の利用
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14J06437
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂田 昂平 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 鉛同位体比 / ホウ素同位体比 / 都市大気 / 海洋大気 / 同位体分別 / 大気流動トレーサー |
Outline of Annual Research Achievements |
<海洋エアロゾル中の鉛同位体比とその起源>:西部北太平洋においては偏西風の影響を受け、東アジアの人為的活動と類似した鉛同位体比が、東部北太平洋においてはカナダの人為起源物質やアラスカの土壌などと類似した鉛同位体比が検出された。このように海洋大気中の鉛は最も近い陸域の影響が大きいことが明らかとなった。また、ベンガル湾の試料においても北太平洋と同様に、最も近い陸源のエアロゾルの寄与が大きかった。このように海洋大気において、鉛同位体比は有用な大気流動トレーサーとして利用できることが明らかとなった。さらに、西部北太平洋上のエアロゾル中の鉛同位体比と、先行研究で示されている同地域の表層海水中の鉛同位体比も類似していた。このように鉛同位体比は大気流動トレーサーとしてのみでなく、表層海水への人為起源物質の沈着まで追跡できる可能性が高い。 <粒径分画エアロゾル中のホウ素同位体比>:大気流動トレーサーとしての利用可能性が見出されているホウ素同位体比だが、鉛同位体と異なり、輸送中の物理的、化学的反応により同位体比が変化する可能性がある。しかし、これに関する考慮は先行研究において、一切行われていない。2013年に採取した各月のエアロゾル中のホウ素同位体比を測定した結果、1年を通して、微細粒子のホウ素同位体比が粗大粒子のそれより低いことが明らかとなった。また、元素濃度比から予想されるホウ素の排出源とエアロゾル中の同位体比に差があることも分かった(特に粗大粒子に含まれる海水由来のエアロゾル)。このことからエアロゾルの輸送中にホウ素同位体比が変化していることが示唆され、大気流動トレーサーとして用いる際には、この変動にも考慮した慎重な取り扱いが必要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画は(1)海洋エアロゾル中鉛同位体比測定および(2)東広島市における 粒径分画エアロゾル中のホウ素同位体比測定であった。(1)に関しては、海洋大気試料中の鉛同位体比測定はすべて終え、北太平洋およびベンガル湾における鉛の起源に関する議論が行うことができた。(2)に関しては、1年分の粒径分画した試料からホウ素同位体比を明らかにすることで、これまで考慮されてこなかった、大気中におけるホウ素同位体比の分別が生じていることを明らかにした。このように当初の計画通り、試料の分析および議論が遂行できた。また、白鳳丸研究航海(KH-14-6次航海、GEOTRACES)において南極海および西部太平洋の粒径分画エアロゾルを採取した。これら試料は来年度実施予定のナトリウムに関する研究において重要と成り得る、表層海水中の栄養塩濃度および生物活性度が大きく異なる海域において試料採取が成功しており、来年度の研究において非常に重要な試料になると期待している。 これら研究に関する結果は、国内外の学会にて既に成果を報告している。国際誌に投稿する論文に関しても既に執筆段階にあり、来年度中に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
陸域から海洋への影響を評価する大気流動トレーサーの確立として鉛同位体比に関する研究を本年度行った。この結果、鉛同位体比が大気流動トレーサーとして有用であることが明らかとなった。。来年度は海洋から大気への影響を評価するために、ナトリウムを中心に研究を行う。海洋から大気中に放出されたエアロゾル(無機的な主成分は塩化ナトリウム)は海洋大気中においても、そこに存在する酸による変質を受ける。そこで来年度は、海洋大気中のナトリウム化学種をX線吸収微細構造(XAFS)法を用いて厳密に明らかにする。ナトリウム化学種の変質過程を明らかにすることは、多成分混合系が基本であるエアロゾル中の他元素の変質過程にも関連があると予想される。そのため、ナトリウム以外の元素も視野に入れつつ研究を行う予定である。 また、本年度の研究からホウ素同位体比が大気中で変化することを明らかにした。特に海水由来のエアロゾル中において、ホウ素同位体比の変動が大きい。そのため、来年度に実施予定のナトリウムの研究と上手く関連させることで、ホウ素同位体比の変化の原因を明らかにできると考えている。
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Research Products
(3 results)