2015 Fiscal Year Annual Research Report
大気・海洋を中心とした生物地球化学的循環の解明:元素同位体および化学種の利用
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14J06437
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂田 昂平 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 海塩粒子 / XAFS法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は南半球外洋にて採取した海塩粒子中のナトリウムの化学種解析を中心に実験を行った。粗大粒子のナトリウム化学種は塩化ナトリウムのみで構成されていた。しかし、粗大粒子中の塩素とナトリウムのモル濃度比をイオンクロマトグラフィーで測定した結果、塩素/ナトリウム比は海水中の1.17を下回っていることが明らかとなった。これは大気中において海塩粒子とヒドロキシルラジカル(OHラジカル)が反応することによって、活性塩素化学種である塩素分子(Cl2)が大気中に放出されたことが原因だと考えられる。このように、大気中においてOHラジカルと海塩粒子が反応したと考えられる直接的な証拠を化学種解析と濃度定量から得られることが明らかとなった。 一方で、微細粒子においては塩化ナトリウムのほかにナトリウムの有機錯体が存在していることが明らかとなった。近年、粒径が1 μm以下の海塩粒子への有機物の濃集が着目されており、大気化学反応が有機物の濃集の一因を担っている可能性が示唆された。ナトリウムの有機錯体が存在している試料の塩素/ナトリウム比は1を大きく下回っており、塩化ナトリウム以外のナトリウム化学種の存在を示している結果とも整合的であった。本研究ではさらにナトリウムと結合している有機錯体を明らかにするために、同じ試料に対して走査型透過X線顕微鏡を用いて、炭素の官能基の化学種解析を行った。その結果、主要な炭素の官能基はカルボキシル基(-COOH)であることが分かった。来年度はこれら有機錯体の起源を明確にし、海塩粒子と有機物の化学反応過程に着目する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度行ったナトリウムの化学種解析および主要イオン濃度の定量結果から、粗大粒子において海塩粒子とヒドロキシルラジカルが反応している痕跡を得られた点は重要な結果だと考えられる。また、微細粒子においても主要なナトリウム化学種として有機錯体が存在していることが明らかとなった。これらのナトリウム化学種および反応過程の痕跡をフィールド観測から得た研究例は決して多くはなく、本研究で用いたX線吸収微細構造法による化学種解析からこのような結果を得た研究は他にない。そのため、ナトリウムの化学反応過程の理解と言う点では当初の計画以上に進展があったと言える。 一方で、海水中の鉛の分離・濃縮法に関してはまだ完成に至っておらず、この点に関しては少し遅れがでているのが現状である。また、得られた研究成果の論文報告も随時行う必要があると考えている。 このような理由を踏まえて、今年度の本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続き、海塩粒子中のナトリウムの化学反応過程に関する研究を継続する。もし、海洋大気中の微細粒子において有機物との反応が卓越するのであれば、それら反応過程が他の粒子との反応にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、来年度は海塩粒子のみでなく、様々な元素組成を持つ粒子に対して炭素の化学種解析を行う。この結果から、微細粒子の海洋大気中で生じる化学反応過程を明確にし、微量金属含有粒子等への有機物による化学反応過程の寄与を評価したいと考えている。また、海水からの鉛の分離・濃縮法に関する検討も随時行っていく。 また、今年度はこれまでの研究で論文に成果報告ができるテーマに関して積極的に国際論文誌への投稿も行っていく。
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Research Products
(4 results)