2014 Fiscal Year Annual Research Report
生体と金属材料の相互作用による金属イオン溶出機構の解明
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14J06483
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 大樹 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ニッケル / 炎症 / Cyclooxygenase / 金属溶出 |
Outline of Annual Research Achievements |
C57BL/6Nマウスの背部皮下にニッケル線を埋入したところ、ニッケル線表面の腐食、ニッケルイオンの溶出、皮膚の肥厚、発赤等が観察された。また、COX-2をはじめとする炎症性遺伝子の発現誘導が見られた。これらの発現は、鉄・アルミニウム・チタン線の埋入ではほとんど誘導されず、ニッケル線に特異的な応答であった。さらに、チタン線埋入群と比較してニチノール(ニッケル・チタン合金)線の埋入によっても、血清中ニッケル濃度が増加し、埋入周囲組織でのCOX-2 mRNA発現が増加した。また、ニッケル線埋入により各ケモカイン遺伝子の発現増加とそれに伴う白血球浸潤が観察された。これらの結果は生体が金属、特にニッケルを異物として認識して炎症応答を誘導する機構が存在することを示唆する。 ステロイド性抗炎症薬dexamethasone、COXの非選択的阻害薬indomethacin、もしくはCOX-2の選択的阻害薬celecoxibの経口投与により、背部皮下に埋入したニッケル線からのイオン溶出量が抑制された。従って、ニッケルにより誘導されるCOX-2は金属溶出の増悪化に関与する可能性が示唆された。また、免疫染色により、ニッケル線埋入初期では線維芽細胞が、後期では浸潤白血球がCOX-2を発現することが分かった。実際にC57BL/6Nマウスの皮膚より単離した線維芽細胞、骨髄細胞から分化誘導したマクロファージ、およびマクロファージ様細胞株RAW264では塩化ニッケル刺激によりCOX-2 mRNAが誘導された。 本年度の研究より、生体は金属から溶出したニッケルイオンを認識し、COX-2を誘導することで異物である金属を排除しようとする積極的な腐食機構が存在することが明らかとなった。なお、以上の研究成果は「日本薬学会第135年会」をはじめとする学会等において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ニッケルに応答して炎症を誘導する因子の探索では、マウス背部皮下にニッケル線を埋入し炎症関連蛋白質の遺伝子発現やリン酸化の挙動を網羅的に解析することを予定していた。しかしながら、in vivoでのニッケル線に対する炎症応答は、多種多様な細胞の関与や二次的三次的な応答の関与が疑われてきた。そのため、in vitroにおけるより単純な系での網羅的解析を行うことで、さらに有益なデータが得られると考え、解析を延期した。一方で、ニッケル線埋入周囲組織での定量的PCRの結果より、金属イオンの中でもニッケルイオンに特異的に応答してCOX-2が誘導されることを明らかにし、さらにこのCOX-2が金属溶出の増悪化に寄与しうる因子として見出されてきた。また、in vitroにおいて線維芽細胞やマクロファージを塩化ニッケルで刺激するとCOX-2を誘導する結果が得られている。そこで今後、このin vitro系を用いてニッケルイオンに応答してCOX-2の発現誘導に関与する因子を明らかにする予定である。 ニッケル線もしくはニッケルイオンに応答して誘導されるCOX-2が金属溶出に及ぼす影響、およびCOX-2発現細胞の探索についてはおおむね計画通りに解析を実施した。結果、COX-2が金属溶出の増悪化に関与すること、およびニッケル線埋入初期では線維芽細胞が、後期では浸潤白血球がCOX-2を発現することが明らかとなった。 また、ニッケル線埋入時の浸潤白血球の挙動に関してもおおむね計画通りに解析を実施した。ニッケル線埋入4時間後からマクロファージの浸潤に関与するMCP-1や好中球等の浸潤に関与するKC、MIP-2などのケモカイン遺伝子発現が誘導され、金属溶出が急激に増加する埋入8時間後にはマクロファージや好中球の浸潤が誘導されていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ニッケルイオンによるCOX-2の発現誘導機構について:現在、C57BL/6NおよびBALB/cマウスそれぞれから単離した線維芽細胞において、塩化ニッケル刺激によるCOX-2誘導能に系統間差がある結果が一部得られている。そこで、線維芽細胞におけるニッケルイオンに応答する転写因子活性化や遺伝子発現等を網羅的に解析し、二系統細胞間での結果を比較することで、ニッケルイオンにより活性化するCOX-2発現誘導経路を明らかにする予定である。 COX-2が金属溶出の増悪化に寄与する機序について:COX-2産物の中でどのメディエーターがどのような受容体や機能を介して金属溶出に寄与するかについては不明である。そこで、COX-2産物の各種受容体阻害薬等を用いて関与するメディエーターおよび受容体を明らかにするとともに、COX阻害薬投与マウスにニッケル線を埋入した際の表現型をより詳細に解析することで、COX-2が金属溶出を増悪化する機構についての解明を目指す。現在、COXの産物の内PGE2が、好中球の浸潤や嫌気性解糖系を亢進させることで乳酸の産生を増加させ、金属溶出の増悪化に関与することを想定した検討を計画している。 浸潤白血球の金属溶出に与える影響について:ニッケル線埋入8時間後ではマクロファージや好中球の浸潤が誘発された。これら白血球浸潤はさらなる炎症応答の増悪化やプロトン放出による組織酸性化等を誘導し、金属溶出の増大に関与する可能性が考えられる。そこで、クロドロン酸リポソーム投与によるマクロファージ減少マウスやLy-6G抗体投与による好中球減少マウスに対してニッケル線を埋入し、金属溶出におけるこれら炎症性細胞浸潤の寄与について明らかにしていく。 以上の3項目を中心に、生体のニッケルに対する応答機構および金属溶出機構の詳細について解明することで、金属溶出抑制のための創薬標的の提案を目指す。
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Research Products
(11 results)