2014 Fiscal Year Annual Research Report
オスマン帝都イスタンブルの都市社会構造 : 1730年騒乱後の秩序維持政策と街区
Project/Area Number |
14J06584
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
守田 まどか 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | オスマン帝国 / イスタンブル / 中東都市史 / 秩序維持 / 街区 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多様な住民が生きたオスマン帝都イスタンブルの都市社会構造を、都市行政の末端組織であった街区に着目し解明することである。18世紀は、オスマン朝君主の権威の拠り所としても重要性を増した帝都の秩序がますます不安定になっていった時代である。とりわけ1730年騒乱後の秩序維持政策において、その根幹をなしたのは、地方からの移住者・女性・非ムスリムの管理強化であった。本年度はまず、このような政府による管理強化の試みの産物として今日に伝世する都市調査台帳や法令等の行政文書の整理と分析を進めた。都市の居住地区・商業地区におけるムスリム・非ムスリムの「すみわけ」や同郷者ネットワークが明らかになった。都市の治安悪化の主要因と見做された移住者に関しては、地方からの人口流入に対する政府の移住規制政策という観点からだけでなく、街区への定着を通して移住者が都市社会へ統合されていく過程として捉え分析した。そのうえで、この統合過程についての理解を深めるため、街区の「都市人口管理組織」としての側面に注目した。この考察により、行政単位として機能する街区と、その中にサブ単位として宗教コミュニティーが組み込まれるという街区の多重構造が明らかになった。さらに、このような人口管理機能の基盤にあった自治的共同体としての街区の性格にも着目した。移住者を含む部外者の受け入れや街区成員の排除・制裁のしくみを、イスラーム法廷史料に記された事例に基づき分析した。これにより18世紀イスタンブルの都市行政と秩序維持は、街区内部で取り結ばれる戦略的で多様な人間関係に大きく依存していたことが明らかになった。以上の本年度に行った研究結果は、個々の論点について投稿論文の執筆を進めつつ、国内外での研究集会・学会において複数の口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、以下の4点である : 1. 1730年騒乱後イスタンブルの秩序維持政策 ; 2. 多元的都市空間における街区分布と「すみわけ」 ; 3. 街区の行政機能とローカル・コミュニティー ; 4. ムスリム・非ムスリム「混住街区」の事例研究 本年度は、上記の研究課題のうち、当初の予定の1, 2点目に加えて、3点目のかなりの部分についても、収集済の史料の整理・分析を進めることができた。そしてこれらの研究結果を個々の論点について取りまとめ、国内外での研究集会、学会で複数の口頭発表を行った。現在、これらの口頭発表をもとに複数の論文・研究ノートの執筆を進めており、来年度中に確実に完成・公刊させたい。加えて、イギリス・トルコに史料調査に出かけた。文書館・図書館において、本研究にとって重要な史料を発見・収集することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、①上記研究課題の4点目に取り組みながら、②同じく研究課題1, 2, 3点目の個々の論点の完成度を高めていくことである。①については、イスタンブルに短期渡航し、イスラーム法廷史料を中心とした史資料の収集と旧市街地区の実地調査を行う。②については、上記研究課題1, 2, 3点目のそれぞれの論点について現在執筆中の複数の論文・研究ノートの完成に向けて取り組む。とくに、本研究が対象とするマフムート1世時代(1730-54年)の社会的・政治的背景をより多角的に考察するため、本年度中に新たに収集した史料の仔細な分析に加えて、フランス(ナント)においても史料調査を行いたい。なお、このマフムート1世時代の社会的・政治的背景を含めた当時の都市政策については、2015年秋の国内学会のパネル・セッションで報告することが確定している。
|
Research Products
(8 results)