2014 Fiscal Year Annual Research Report
がんの近赤外セラグノーシスを実現する多機能性ジラジカル錯体の創製
Project/Area Number |
14J06921
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田村 昂作 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ジラジカル錯体 / 近赤外吸収 / グルタチオン / 活性酸素 / セラグノーシス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではジラジカル錯体(Pt錯体)のNIR吸収の酸化還元応答性に着目し,グルタチオン(GSH)との反応によるNIR吸収のON/OFF制御と,NIR吸収に基づく光熱効果,溶存酸素との反応による活性酸素種の生成を利用した,新奇ながんのセラグノーシスを着想し,ジラジカル錯体の機能開拓を行った. まず,in vitroにおいてPt錯体の活性酸素生成能とGSHとの反応を調査した.pH 7.4ではPt錯体は溶存酸素によって酸化され,NIR吸収がOFFになった.またその際,過酸化水素(H2O2)を生成することを確認した.続いて,NIR吸収がOFFの錯体にGSHを添加すると,NIR吸収がONになった.これらの結果は,Pt錯体が細胞内に取り込まれた後に,初めてNIR吸収がONになることを示唆するもので,精確な癌細胞のイメージングが期待できる.さらに,光熱療法効果と化学療法効果によって高い抗癌活性を示すことが期待できる.続いて,in vivoでの検討を行った.Pt錯体はHepG2細胞中でもNIR吸収を示した.また,細胞中のGSH濃度を低下させ活性酸素を生成した.これらより,ジラジカル錯体は,光音響イメージングによるがんの精確な診断と,光熱および化学療法によるがん治療の全てを可能にするNIR吸収体となりうる. GSHとの反応を検討する過程で,Pt錯体がGSHによって配位子置換され錯体が解離することを見出した.細胞内と同様の条件では,錯体の半減期は1分であった.キレート効果による安定性の付与を志向し,4座配位子からなるPt錯体を新たに合成した結果,半減期を1日まで上昇させることに成功した.また,その錯体が酸化還元反応に基づいてNIR吸収のON/OFFのスイッチをすることも明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究予定と比較して,GSH添加によるNIRスイッチ機能の調査,活性酸素生成能と活性酸素種の同定,がん細胞内でのGSHとの反応および活性酸素生成の確認が完了している.一方で,GSH酸化触媒能の調査,光音響トモグラフィーによるがん細胞のイメージング,光熱効果および活性酸素生成に基づく抗癌活性の調査がまだ行われていない.GSH酸化触媒能の調査は,Pt錯体のGSHによる配位子置換反応が起こることによって調査できていなかった.しかし,4座配位子を導入することによって錯体の安定性を付与することに成功しているため,まずそのPt錯体のGSH酸化触媒能を調査する.さらに,今後の研究の推進方策で述べるが,マクロサイクル配位子からなるPt錯体についても同様に検討する.がん細胞の光音響トモグラフィーによる画像化に関しては,細胞にPt錯体を導入することはできたものの,GSHの配位子置換により細胞内で錯体が解離することで,NIR吸収が小さくなり,画像化することができていない.新たに合成した4座配位子からなるPt錯体とマクロサイクル配位子からなるPt錯体の細胞内への導入を試み,光音響シグナルの取得を試みる.ここまで述べたように,GSHの配位子置換によって検討が難しかった調査が多々あった.しかしながら,今年度の調査によってGSHの配位子置換に対する安定性の付与の指針を得ることができたので,新たに合成したPt錯体およびマクロサイクル配位子からなるPt錯体を合成することで,これまでに検討できなかった調査も今後は行えると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
本錯体を用いてがんのイメージング,治療および治療効果の確認を行う場合,GSHの配位子置換に対する錯体の半減期は少なくとも3日程度は必要であると考える.錯体の安定性の付与には,キレート効果を用いる方法が有効であることが今年度の検討によって明らかになっており,4座配位子を用いた場合,半減期を1日まで増大させることに成功している.そこで,さらなるGSHの配位子置換反応に対する熱力学・速度論的な安定性を付与するために,マクロサイクル配位子の合成を試みる.そして,そのPt錯体を合成し,GSHに対する安定性,錯体のGSHとの反応によるNIR吸収のON/OFFおよび過酸化水素生成能などのキャラクタリゼーションを行う. 続いて,in vivoでの検討として,活性酸素生成および光熱療法効果に基づく抗癌活性を調査する.そして,光音響イメージングを用いてがん細胞の画像化および細胞の生死判別を試みる.また,新しく合成したマクロサイクル配位子からなるPt錯体については,がん細胞内への導入方法を検討し,それが確立でき次第,同様の検討を行う. 最後に,錯体へのがんのターゲティング能の付与を試みる.具体的には,がんの抗体にPt錯体を直接コンジュゲーションする方法,もしくはがんの抗体を修飾したリポソームに錯体を封入する方法を検討する.ターゲティング能を付与した後,正常細胞とがん細胞への抗癌活性および光音響シグナルの強度を比較し,ターゲティング方法の評価を行う.
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Research Products
(4 results)