2014 Fiscal Year Annual Research Report
プラトンの裁判関連著作におけるソクラテスの市民性の研究
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14J06923
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
近藤 和貴 青山学院大学, 国際政治経済学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 政治思想史 / 政治哲学 / ギリシア哲学 / プラトン / ソクラテス |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は以下の3つの領域で研究を進めることができた。 第一に、 研究計画にしたがいプラトン『ソクラテスの弁明』前半部、とりわけ「最初の告発者たち」への反論について研究を行った。ソクラテスは弁明冒頭のこの箇所で、正式な告発状ではない、自分に対する世間の悪評を取り扱っている。先行研究ではこの箇所を正式な告発への反論を補強して無罪判決の獲得に資するものとするか、あるいはそもそも無罪判決とは関係がない哲学の提示とする意見が主流であった。本研究では先行研究を批判し、ソクラテスが哲学に対する民衆の偏見を肯定的なものに置き替えようとしていることを明らかにした。哲学に対する疑惑が原因で告発されたソクラテスは、哲学への偏見を取り除くことで、哲学と都市の調和をはかっている。この分析から『弁明』の新しい解釈を提示するのみならず、ソクラテスがどの程度、あるいはどのような意味で都市内在的な存在なのか分析する手掛かりを得ることができた。なお、この研究の成果は、哲学の国際学会および国内の政治哲学カンファレンスにおいて報告され、論文は国際ジャーナルに掲載された。 第二に、ソクラテスに関する上記の解釈を裏づけるため、関連する文献、クセノフォン『オイコノミコス』の研究を行った。同書ではソクラテスが農業・家政論を展開している。そのため、同著作は哲学的なものとは捉えられず、田舎紳士クセノフォンの自己投影にすぎないと長年解釈されてきた。本研究は、対話篇の場面設定を読み込むことで先行研究を批判し、『オイコノミコス』の農業・家政論はソクラテスによる市民教育の描写であり、さらに、この教育方針からソクラテスと一般的な善き市民との距離を測定することができると結論付けた。なお、この研究の成果は、雑誌『政治哲学』に掲載された。 第3に、プラトンの位置づけを明確にすべく、思想史研究を行い、その成果として翻訳書を二冊出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ研究計画に従って、成果(学会報告・論文)を出すことができた。とくに、海外での報告、国際ジャーナルにおける論文掲載は、大きな成果である。 ただし、当初の計画よりも研究がやや遅れ気味であることも確かである。その理由として、当初の研究計画にはない関連分野の研究を進めたことが挙げられる。しかし、関連分野の研究も当初の研究計画に資するものであり、さらに出版等で成果もあげている。 研究は回り道をしているが深めてもいる、というのが2014年度の自己評価である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従い、プラトンの『弁明』研究を完成させた後、『クリトン』の研究に進みたい。さらに、最終年度においてコスモポリタニズムの視点からソクラテスの生を評価するため、今年度のうちにコスモポリタニズムの思想史的研究を始める。 現段階では、進捗状況に遅れは出ているものの、研究上の大きな問題点、変更点はない。
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Research Products
(10 results)