2014 Fiscal Year Annual Research Report
自立生活運動をめぐる「自立生活」概念の再考--規定された主体性からの解放
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14J06971
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
長谷川 唯 京都府立大学, 公共政策学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 自立生活運動 / 障害 / 難病 / 介助 / アイデンティティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に自立生活運動の先行研究の批判的検討を行なうための実証データの集積を目的とした調査を実施した。具体的には、自立生活運動を先導してきた運動家、障害当事者や団体にインタビュー調査を実施した。 調査を通して、自立生活運動が介助を保障する仕組みを目指すものとして捉えて展開されてきた側面と、自分たちの生活を勝ち取っていく運動としての側面があり、それらが運動を展開していく際に当事者同士の連帯の難しさとして立ち現れてきたことが確認できた。 とくに、身体障害を中心とした当事者運動では、自立生活センターにおける運動と運営のバランス、健常者スタッフとの関係、さらには当事者同士の関係において課題があることが明らかにされた。障害を持つ者同士の関係では、精神や知的などの異なる障害を持つ人たちとの連帯よりも、同じ身体に障害を持つ者同士で運営面における能力の差のようなものが生じており、そこでの連帯が課題として示された。 障害者運動にかかわってきた介助者からは、介助者であるがゆえに手足に徹しなければならない困難さや、当事者からの要求について介助者としてどのように受け止め判断していくのか、その難しさについて明らかにされた。その中でも当事者との関係で生じるアイデンティティの喪失については、従来の介助者の生活保障やその立ち位置に焦点を置いた研究からは知り得ないことであった。これは、障害を持つ者と健常者がどのように連帯していくのか、どのような連帯が可能なのか、その関係性を検討するには有益な視点である。 障害者運動の場での調査は、異なる障害や立場を持つ者たちが、どのように自分たちとの活動や立場に問題とされる事象を関連付けて運動にかかわっていくのかについて注意深く観察している。この調査は、実際の政策内容や具体的な提言をする上でも重要なため、継続して実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、障害を抱える人たちの多様な生活や障害の特性に焦点をあてているため、本人やその人をとりまく人たちへの丁寧な聞き取り調査や観察が必要となる。現在までに、9名の障害当事者と2名の障害者運動にかかわってきた者にインタビュー調査を実施し、理論の枠組みを構築するための実証データを着実に集積している。 またインタビュー調査だけではなく、実際の障害者運動の場にできる限り出向いて、その動向を追いながら資料収集も行なってきた。そして、そこでの調査および活動から得られた成果を、「福祉社会学会」「難病看護学会」「障害学会」などの学会で口頭及びポスターとして発表しし、現在はそれらを論文としてまとめる作業に着手している。よって順調に研究が進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、自立生活運動を先導してきた運動家やそれにかかわってきた支援者を中心にインタビュー調査を実施し、その運動の歴史的経緯や展開について明らかにされてきた。今後は、この調査を継続しながら、「主体性」や「自己決定」が難しいとされている人たち(具体的にはALSをはじめとする進行性難病者、知的障害者、重度の精神障害者)を中心にインタビュー調査を行なう。 そして、それらのデータを照らし合わせながら、主体性の発揮が困難な人の生活と従来の「自立生活」との間にどのような差異や隔たりがあるのか、「自立生活」が可能であるための状況、条件とされている前提を見直す作業に着手する。これらの作業と並行して、現在までの調査結果を論文としてまとめる。
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Research Products
(11 results)