2014 Fiscal Year Annual Research Report
日本近現代文学における性の構成の比較文学的研究-川端康成の作品を起点として
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14J07016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 裕香 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 樋口一葉 / 「十三夜」 / 身体 / 川端康成 / 『千羽鶴』 / 手紙 / 国際研究者交流(オーストラリア) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の主な成果は、①専攻紀要『言語情報科学』への論文投稿、②日本文学協会第34回研究発表大会での口頭発表、③オーストラリア国立大学におけるワークショップへの参加である。 ①では、樋口一葉「十三夜」を「身」という言葉に着目して読み、明治20年代の家父長的家制度および資本制のもとでの身体のあり方について論じた。これは報告者が川端以外の作品を扱った初めての論文である点で、重要である。川端を論じるにあたって行う徹底した精読という作業が、他の書き手の作品にどこまで有効で、いかなる変形を要するかを検討するとともに、性の問題を川端以前の時代に遡って考察した。この結果報告者は、身体という着眼点が、文学における性のあらわれを、既存の性の制度を踏襲し再生産するのではない形で論じるための手掛かりになると考えるに至った。 ②では、修士論文の中心をなす川端康成『千羽鶴』論をより簡潔に、より広範かつ深い批評性を発揮するよう書き直し、発表した。原稿と配布資料を準備するなかで、議論の核となる主張や一貫する方法論的視座を正確にとらえられたことは、今後他の作品を読み解く際に大いに役立つだろう。発表会場では鋭くかつ建設的なコメントを受けることができ、特に読者論的な視点が注目されたこと、その理論的彫琢の可能性および必要性を指摘されたことは、報告者の研究にとって大きな励みである。川端文学を積極的に論じている他の多くの研究者、特に同世代の研究者との対話を通じて、川端文学への関心の高まりや観点の多様化を実感した。 ③では、映画『おくりびと』を題材に、現地の学生との討論および家族、ジェンダー、セクシュアリティの表象に関する発表を行った。「日本」への多様なまなざし、および自身が時に無自覚のまま身を置いている文脈と向き合いながら、作品に孕まれた問題について英語で意見を発信することは、大きな挑戦であり成果でもあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本近現代文学における性の構成を、川端康成の作品を起点として研究するという報告者の課題は、順調に進展し、多くの成果を上げている。性あるいは性的なものという概念自体を問う試みは、文学における身体や欲望といった問題を巻き込んで、批評的深度を増しつつある。また作品の精読、特に言葉と言葉の有機的な繋がりあるいは動的な相互作用への注目という方法は、作品を取り巻く諸条件およびその歴史的展開を視野に入れて、精度を高めている。以上の達成は、報告者がなした口頭発表および執筆した論文の内容に見て取ることができる。報告者はまた、以上の研究の射程を、川端文学という枠組みに閉じることなく、明治時代の樋口一葉から現代の日本語文学にまで及ぼすことに努めている。同時に、国外でのワークショップを含めて成果を精力的に発表し、多様なフィードバックをもとに研究を発展させるとともに、各種シンポジウムやワークショップ、研究会等に積極的に参加し、学問的な視野を広げている。以上の達成は、口頭発表や論文発表の場に表れていると言える。残る課題としては、研究や口頭発表の成果を論文として活字化すること、および博士論文執筆に向けての具体的な準備である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後研究を推進するにあたっては、ジェンダーやセクシュアリティといった批評の言語あるいは観点自体を、主たる分析対象となる川端康成の作品への適用可能性に鑑みながら、これまで以上に慎重に扱い、細密に検討しなければならないと考えている。男/女という二分法や、それ自体に異性愛主義的な要素が含まれているであろう性欲という概念を所与のものとみなすことなく、身体や欲望、生と死といった問題系を論じてくために、文学のみならず広く文化や社会を論じた国内外の批評的著作を、より一層読み込んでいかなければならない。またこのような研究を行うにあたって不可欠であるのが、あるテクストというミクロのレベルと、対象としてのそのテクストおよび報告者自身が置かれた文脈というマクロのレベルを往還するための適切な手続きであろう。論述の方法自体を常に議論に開くよう努めるとともに、多岐にわたる正確な知識を身につけることが必要である。文学という専門分野を活かしながら、多角的な意義のある研究を行うためにも、書き言葉の特異性や、書く/読むこととは一体いかなる行為なのかという根本的な問いに、以上を通して接近していくつもりである。
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Research Products
(3 results)