2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本近現代文学における性の構成の比較文学的研究-川端康成の作品を起点として
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14J07016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 裕香 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 十六歳の日記 / 骨拾い / 片腕 / 国立交通大学(台湾) / シカゴ大学 / 日本研究 / 東アジア / 翻案 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の成果の第一は、国内外の多くの研究者と研究経過を共有できたことである。6月には台湾の国立交通大学における亞際文化批判思想跨國網絡ワークショップ「東亞社會與共生哲學」に参加した。「日本の美」の体現者としての川端康成のイメージを相対化する試みの一つとして、祖父の死を題材にする二つの短編「十六才の日記」と「骨拾い」を取り上げ、それらにおける排泄物の機能を検討する発表を行った。9月には東京大学の言語態研究会ワークショップ「戦争の時代と詩のことば―1930‐1940年代・日本語による詩的言語」に参加した。その前段階、1920年代の植民都市大連という文脈とのかかわりから、安西冬衛「雨によごれた停車場」を分析する発表を行った。10月にはシカゴ大学における東京大学・シカゴ大学合同ワークショップ「Japan Studies at the University of Chicago and the University of Tokyo」に参加し、発表を行った。川端文学における生殖の忌避という視座から「片腕」を精読し、それが身体のジェンダー化を極端に押し進めながら、それゆえにこそ規範的な異性愛体制にねじれを生じさせることを論じた。いずれも日本という文脈におさまらない議論の場、とくに台湾とシカゴでは英語が使用言語であり、報告者には大きな挑戦かつ飛躍であった。 以上の発表に向けて準備するかたわら、報告者は批評理論、歴史・社会研究、日本の現代小説や世界各国の小説など多岐にわたる読書に励んだ。とくに1月の東京大学―北京大学合同ウィンターインスティテュートでは、ジェイムソンやアルチュセールらの著作を読み、両大学の教授の講義を受けつつ、批判的議論を行った。ここでの発表では、台湾およびレバノンにおける川端文学の翻案作品を取り上げ、それら第三世界からのまなざしが切り開く多様な解釈の可能性を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
報告者の研究は、交付申請書の「研究実施計画」に照らせば、やや遅れていると考える。海外での二度を含む、三度におよぶ研究発表は非常に大きな成果であり、研究の射程を広げ、洞察を深めるという点においてはおおいに意義があった。それらに向けて研究を進めていく過程で、川端康成の「十六才の日記」、「骨拾い」、「片腕」といった重要な作品、さらに雑誌「亞」に掲載された多くの詩編、朱天心「古都」、Rashid al-Daif「Dear Mr. Kawabata」といった日本という文脈にとどまらない作品を分析・批評することができ、加えて批評理論や歴史・社会研究といった議論の基盤もより強固にすることができた。他の研究者との対話なくしては得られない批判や指摘、示唆も多く得られた。以上は今後博士論文を執筆していくにあたって、なくてはならない知識であり、視座であり、力であると思われる。 しかしながら、各口頭発表の準備や、発表や議論を受けての読書や思索に時間をかけるあまり、これまでの研究成果を論文として発表すること、および博士論文の構想を練り、執筆を始めることという二つの課題が進んでいないことも事実である。学術論文に関しては、川端康成の長編「千羽鶴」についての論考を、5月に学会誌「日本文学」に投稿し、不採用となってから、再投稿がかなっていない。投稿論文に対してぶつけられた厳しい批判、鋭い疑問に応えるために、いっそうの研究が必要であったことは確かだが、今後は論文発表という目的を明確にもって、スケジュールを組むようにしたい。また、今年度になした経験が博士論文につながることは間違いないが、残念ながら執筆資格審査を受けるに至らなかった。今後はいち早く執筆資格審査に合格し、長大な研究論文の構想を明確に持ちたいと考える。以上をもって発表や議論を行えば、報告者の研究はより円滑かつ生産的に進むだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究実績、および進捗状況に鑑みて、今年度は以下のとおり研究を推進していく。 1)川端康成「千羽鶴」に関する論考の再投稿 27年度不採用となった論文を、加筆修正のうえ再投稿する。前年度の投稿の際に受けた批判や指摘は、報告者の研究の根幹にかかわるものであり、これに十分に応答し、問題点を克服するためには、理論的な枠組みの再検討も必要であろう。まずは既に投稿したものを読み直し、批判や指摘、そこからの示唆を正確に理解することから始め、いま一度参考文献を精読し、作品を分析することをもって、「千羽鶴」論の書き直しを行う。 2)博士論文執筆資格の申請 26年度および27年度になした研究の成果を踏まえ、博士論文の構想を具体的にし、執筆資格審査に合格することを目指す。二年間の経験、とくに前年度の発表や議論、読書や思索を通じて、「文体」や「身体」といった作品分析のキーワードが明確になってきた。これらの観点から川端文学を論じるにあたって必要な理論的枠組みや歴史的・社会的洞察も、着実に身につけつつあると思う。今後はさらなる学習を通じて、これをより強固に、精密にするとともに、分析の主たる対象とすべき作品を見極め、博士論文の構成に結実させていきたい。そしてまた、それらの作品の読解を進め、博士論文の一部かつ学術論文として認められるような論考にまとめることを目標とする。前述の「千羽鶴」論に加え、これもまた学会誌に投稿する予定である。
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Research Products
(3 results)