2014 Fiscal Year Annual Research Report
個体拡散モデルに関係する非線形拡散方程式の自由境界問題の可解性と解の漸近挙動
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14J07046
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
兼子 裕大 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 自由境界問題 / 反応拡散方程式 / 可解性 / 漸近挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、数理生態学に現れる個体拡散を記述する非線形拡散方程式の自由境界問題についての数学理論を構築し、現象の理解に役立てることである。問題において、未知関数は生物の個体数密度と生息領域の前線(自由境界)であり、解の漸近挙動に現れるSpreading (進行の成功)とVanishing (絶滅)の挙動で現象を説明する。本年度に取り組んだテーマは、1. 生息領域として多次元球対称領域を想定する自由境界問題、2. 一般多次元領域における自由境界問題、3. 1次元に理想化する自由境界問題である。 1では、円環領域において片側の境界のみが自由境界になる場合(以下、P1)と両側の境界ともに自由境界の場合(P2)について研究した。(P1)では、非線形項が広く一般的な条件を満たすとき、漸近挙動についてSpreadingとVanishingの一方の挙動が現れること(二者択一定理)を示した。また、初期値に関する漸近挙動の判定法を構築した。すなわち、初期値が大きければSpreadingが起こり、小さければVanishingが起こるという結果を得た。(P2)では、内側の自由境界が原点に到達するときに特異性が生じる。そのため、弱形式を導入して可解性を示した。2では、外部問題(個体の生息できない領域が存在するケース)について、可解性を研究した。その結果、先行研究の手法を用いて弱解の大域的存在と一意性の成立が確かめられた。3は共同研究であり、個体の進行が成功したとき、自由境界が一定速度に近づくことや個体分布がSemi-Waveと呼ばれる関数に収束することの証明を修正し、完成させた。この結果は、個体の進行の様子を把握する際に役立つものであると考える。 1、2については、第10回AIMS国際会議(マドリッド)など国内外で研究発表を行った。3については、共著論文が掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
個体拡散モデルの自由境界問題に対する数学理論を構築するために、1. 問題の可解性、2. 解の漸近挙動、3. 可視化技術の開発と適用、の3つを研究対象としている。それぞれの現在までの達成度は(1) 60%、(2) 60%、(3) 25%であり、おおむね順調に進展していると考える。 1は、解の存在と一意性に関わる課題である。これまで多次元円環領域における問題(P2)に対して、弱形式を導入して、弱解の時間大域存在と一意性を確かめた。一方、多次元一般領域の外部問題についても、先行研究の手法を用いて可解性を示した。しかし、より広い関数空間において可解性を調べることなど、まだ研究の余地がある。 2の目標はSpreadingとVanishingの挙動を明らかにすることである。これは、個体拡散の様子を把握するために欠かせない課題である。これまで多次元円環領域における(P1)について、単安定項や双安定項を含むより広く一般の非線形項について、SpreadingとVanishingの二者択一定理とその判定法を証明した。また(P2)に対しては、非線形項が単安定項のとき、初期値が大きければ外側の自由境界は無限遠方まで達し内側の自由境界は必ず原点に到達する(特異性が生じる)ことを示した。より一般の非線形項に対しては、もし自由境界が有限に留まれば、Vanishingが起こるという結果を得た。しかし、判定法などの詳細に関しては未解決な課題が残されている。1次元問題における自由境界の漸近速度については、期待通りの結果が得られた。 3の目標は、個体の進行前線(自由境界)と個体分布の変化を視覚化することである。これまで1次元領域においては視覚化に成功している。2次元領域においては、境界が複雑に変形することなどが原因で、1次元の場合の手法を用いることができない。そのため、文献調査を行い、いくつかの手法を検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず円環領域における自由境界問題の解析に取り組む予定である。特に領域の両側の境界が自由境界となる場合(P2)のSpreadingとVanishingについて、詳細を明らかにする。次に、一般領域においてある種の弱い解の存在と一意性の成立について調べる。これは、例えば数値計算など、理論を応用する際にも必要になると考えている。最後に2次元領域において、自由境界が広がる様子や個体分布の変化する様子が分かるように、コンピュータによる可視化技術の開発に取り組む。 研究を推進するために、非線形偏微分方程式や生物モデル、数値計算に関する研究集会に参加して研究発表と情報収集を行う。また、関連する自由境界問題に取り組む研究者や数値計算技術に詳しい専門家を訪問して討論を重ねることが重要である。それらを通じて、研究をさらに発展させて行く予定である。 以上のように、生物個体の拡散現象をより詳しく理解するために、現象と関連する自由境界問題の数学理論の構築に向けて取り組んで行く構えである。
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Research Products
(10 results)