2014 Fiscal Year Annual Research Report
アンリ・サン=シモンにおける〈産業〉および〈自由〉の概念の研究
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14J07063
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
白瀬 小百合 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | アンリ・サン=シモン / 産業 / 産業体制 / ジャン=バティスト・セー / 社会思想 / 19世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は〈産業〉概念の分析を中心的に行い、サン=シモン初期~中期(1802-1823年)の著作の精読を進めるとともに、同時代の経済的自由主義に属する思想との影響関係に着目した。 主著『産業』(1816-1818年)において、サン=シモンは〈産業〉を「もっとも一般的な意味で理解された産業」、「理論ならびに応用、知的労働ならびに肉体的労働といった、あらゆる種類の有益な労働を包含する産業」と定義づけている。彼によれば、〈産業〉には物質的な生産活動のみならず、知識人や学者による知的活動や、芸術家による制作活動も含められている。 サン=シモンの〈産業〉概念は、同時代の政治経済学者ジャン=バティスト・セーからとりわけ影響を受けている。セーは『政治経済学概論』(1803年)などの著作において、〈産業〉に農業的産業、工業的産業、商業的産業の三つの区分を設けている。セーは物品が持つ人間の欲求を満たす性質を〈有用性〉(=効用)として定義づけ、有用性の創出に価値の創出があると考えている。 セーの議論を踏襲し、サン=シモンもまた〈産業〉と〈有用性〉を結びつけ、諸々の生産活動に対し価値づけを行なうが、彼の〈産業〉概念は、知識人や芸術家の営みをもその内部に含み、セーが提示した産業の三区分よりも広い射程を持つ。というのも、〈産業〉が全面化した社会においては、学者や芸術家たちの営みが人々の精神的側面にはたらきかけ、「産業体制」を形作るに相応しい道徳を主導すると考えられているためだ。したがって、サン=シモンにとって〈産業〉とは社会の一部分をなす経済活動に留まるものではなく、社会の基盤を作ると同時に社会そのものを組織するものとしてとらえられている。セーの〈産業〉と〈有用性〉をめぐる議論を援用しつつ、政治・社会・道徳の諸領域に接続した点にサン=シモンの〈産業〉概念の独自性があることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
サン=シモンの〈産業〉概念の考察に焦点を合わせた本年度の研究は、おおむね予定通りに遂行された。〈産業〉概念の政治的・道徳的射程の明確化にかんしては、依然として分析の余地が残されているものの、次年度の研究計画を実施するための基盤を整えることができたと考える。本年度中に得られた研究成果をもとに、国内外の学会・研究会において二度の口頭発表を行なった。また、それぞれの発表時に得られたフィードバックを反映させ、内容をより発展させた論文一本を公表できた。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に得られた成果を踏まえ、次年度はサン=シモンの〈自由〉の概念に考察を加える。その際、とりわけ彼の〈自由〉の概念が持つ政治的・道徳的側面に注意を払いたい。サン=シモン中期~後期(1813-1825年)の著作を精査するとともに、同時代人の思想家であるバンジャマン・コンスタンの著作を参照し、19世紀の政治的自由主義に対するサン=シモンの位置づけを明らかにする。サン=シモンにおいて〈自由〉の概念は〈産業〉概念と密接にかかわるものであるため、〈産業〉概念に対する検討も継続的に行っていく。以上の研究過程で得られた成果を総括し、研究雑誌等で公表する予定である。
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Research Products
(3 results)