2014 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシア・イスラームの変容:ポスト・イスラーム復興現象期をめぐる人類学的研究
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14J07165
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
荒木 亮 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | インドネシア(Indonesia) / イスラーム(Islam) / アア・ギム(AA. Gym) / スカーフ(scarf) / ムスリマ(Muslima) / フィールドワーク(fieldwork) / イスラーム復興(Islamic revival) / オブジェクト化(Objectification) |
Outline of Annual Research Achievements |
【文献研究】本年度中の目標は、「イスラーム復興」と呼ばれる現象を再考するにあたって、関連する文献を渉猟し、本研究を先行研究上の議論に位置づけるための方途を探ることであった。文献研究を通じて、「急進的な」イスラーム主義者とされるムスリムの政治的運動や過激な行動に関する分析、より「真正な」イスラームを希求するムスリムの認識を焦点化した研究、さらにイスラームの顕在化を社会・文化的側面から描く議論といった先行研究でなされたプローチ方法の把握、および民族誌的記述からじっさいのムスリムの宗教実践や認識が多様であるという点について理解を深めた。 【現地調査】本研究の調査地であるインドネシアにおいて、イスラーム復興が顕在化するのは1980年代頃以降とされる。一方で、この間、インドネシア社会は急速な経済発展を遂げ、欧米近代的な文化や価値観が浸透した。そこで本研究では、イスラーム復興と欧米近代化という一瞥すると相反する価値観の同時進行的状況に着目し現地調査を行った。具体的には、2000年代に都市部の若者を中心に絶大な人気を誇ったイスラームの説教師、AA・Gymに着目し、本人へのインタビューおよび現地の人々への聞き取り調査を行った。また、スカーフやイスラーム服のファッション化という現象、対してそれら宗教的服装へのアレンジメントを邪視する現地の言説に着目し、イスラーム服の市場、新聞や雑誌の収集、および若者ムスリマへの聞き取り調査を通じて「イスラーム的なるもの」をめぐる現地の動向について検討を進めた。 【研究成果】本研究は、世俗的な背景を有する説教師の人気現象、またお洒落なムスリマ・ファッションの広まりに関する事例から、イスラーム復興の顕在化や浸透は、「真正な」イスラームへの志向にのみ依拠しているのではなく、イスラームと異なる価値観との混淆物を消費することで駆動しているという点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、インドネシアにおける「イスラーム復興」について、(1)当該地域を対象とした先行研究の整理と現地滞在調査(フィールドワーク)による現地の状況・動向の把握、および(2)1970年代以降に顕在化する世界的なイスラーム復興/回帰を扱った他地域の先行研究との比較・検討を通じて明らかにすることを試みるものである。ただし、その過程では(3)調査地であるバンドゥンを中心とした西ジャワ地域に住むスンダ民族の土着の文化や慣習との関係性にも留意ないしは着目し研究を進めることを計画している。 本年度は、文献研究を通じて、インドネシアにおける「イスラーム復興」およびその世界的な動向に関する研究状況を把握することができた。また2回の短期現地調査(2014/08-09 ; 2015/02-03〔於:インドネシア、ジャカルタおよびバンドゥン〕)を通じて、インドネシアにおける今日のイスラームのあり方を概観するとともに、現地ムスリムの日常的な生活実践からかれらにとってのイスラームについて素描することができた。他方、スンダ民族の土着の文化や慣習とイスラームとの関係性について現在は先行研究の検討に留まっている。その点については、来年度以降に予定している長期現地調査において調査研究を本格的に始動したいと考えており、その準備としては、上記作業と並行して、これまでインドネシア政府から調査許可書を取得する作業を現地研究機関(カウンターパート)との意見交換を進めてきた。 以上のことから、3年間の研究計画における初年度の作業としては、当初の計画通りおおむね順調に進展していると言える。なお、現在までの研究成果については、学会(計2回)と研究セミナー・国際シンポジウム(計3回)にて口頭発表をするとともに、学術論文として発表を予定している(1:採録決定済〔2015年6月刊行予定〕、2:現在査読中)。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行するにあたっての今後の推進方策としては、長期現地調査(フィールドワーク)に基づき、以下の2点を検討することとしたい。 【1:「イスラーム復興(現象)」の再考】インドネシアにおける「イスラーム復興」は、他のイスラーム社会におけるそれと同様に、イスラームを掲げた政治的・社会的な運動の進展、および日常的な生活におけるイスラーム的なるものの浸透をもたらしたと言える。けれども、それらは必ずしもイスラーム的な側面のみによって駆動されているわけではないということを、世俗的な背景を有する説教師の人気、またムスリマ・ファッションの動向に関する事例から明らかにした。そこで今後は、異なる価値観や文化的背景を混淆する謂わば「ハイブリッド」としての「イスラーム復興」について検討を進める。具体的には、長期現地調査とそこでの参与観察を通じて、イスラーム復興とされる現象を現地の人々の日常的な生活や宗教実践を微細に記録することから逆照射する。 【2:伝統文化の再興とイスラーム復興との併存状況の解明】インドネシアにおけるイスラーム復興を取り巻く状況としては、欧米近代的な価値観の浸透といった状況がある一方で、ポスト・スハルト時代とされる大凡2000年代頃以降に顕在化してくる各地域の民族集団による伝統文化の再興運動が挙げられる。例えば、ヒンドゥー教の影響が強い王宮や精霊崇敬にルーツを持った諸伝統文化の再興は、イスラーム復興(現象)のもとで先鋭化する(ように見える)一神教的側面とのあいだで軋轢を孕みつつ進行している状況として捉えられる。したがって、本研究では、長期調査を通じて、再興される伝統文化とイスラームとの併存状況や関係性を現地の文脈で把握し、そこから浮かび上がるイスラーム復興が備えた柔軟性、あるいは謂わば宗教の(再)重層化といった側面を明らかにしたい。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] Religious Practice as an “Object”2015
Author(s)
ARAKI Ryo
Organizer
The International Union of Anthropological and Ethnological Sciences (IUAES) Inter-Congress 2015
Place of Presentation
Thammasat University, Bangkok, Thailand
Year and Date
2015-07-15 – 2015-07-17
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