2015 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシア・イスラームの変容:ポスト・イスラーム復興現象期をめぐる人類学的研究
Project/Area Number |
14J07165
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
荒木 亮 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | インドネシア(Indonesia) / イスラーム(Islam) / フィールドワーク(fieldwork) / イスラーム復興(Islamic revival) / 伝統 (tradition) / 地域主義(regionalism) / バンドゥン(Bandung) / スンダ文化(Sundanese culture) |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から研究テーマを引き継ぎつつ実施した採用2年目となる本年度は、より現地調査に重点を置いて、研究活動を実施した。 【現地調査】報告者の調査村は、インドネシア有数の地方都市であるバンドゥン市と西ジャワ地域の避暑地として名高いレンバン県との境に位置し、近年は、都市化や観光開発の影響を強く受けるようになった、いわば「郊外」と成りつつある田舎の村落である。その一方で、現地の主要な民族であるスンダ人が人口の90%を占める同村落では、土着の慣習なども色濃く残っている。そこで、イスラーム教の信仰が他地域と比べて相対的に篤いと言われるスンダ人の村落(K村)にて住込み調査を行い、集団礼拝やクルアーン朗読会、また地域の子どもを対象としたアラビア語の勉強会、さらには犠牲祭といった宗教活動を参与観察した。加えて、伝統的な武道(シラット)や割礼儀礼(スナタン)といったイスラーム的であると同時に地域の慣習という側面も強い行事や活動についても調査を行い、都市部を中心としたイスラーム復興の顕在化や(欧米)近代的な価値観の拡がるなかで、周辺地域における従来の慣習や伝統文化の位置づけについて明らかにすることを試みている。 なお、本年度、本格的な村落調査を開始するにあたって、報告者は、インドネシアの法令を遵守すべく、外国人調査許可(ID:456/SIP/FRP/E5/Dit.KI/XII/2015)を取得した。 【研究成果】本年度は、昨年度の調査データを整理するとともに、先行研究を踏まえて検討した内容を、論文および学会発表を通じて明らかにした。具体的には、都市部を中心とした「お洒落な」ヴェール着用の増加を事例としてイスラーム復興を検討した論文(「オブジェクトとしてのジルバッブ」『社会人類学年報 Vol. 41』弘文堂)ほか2本、2本の書評、1本の論文翻訳、また国内外の学会・研究会にて合計7回の口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から研究テーマを引き継ぎつつ実施した採用2年目となる本年度の研究について、その自己評価と達成度については、以下の通りである。 【調査許可の取得】本年度は、より本格的な現地調査を開始するにあたってインドネシア政府から外国人調査許可を取得した。調査許可は、現地で円満に調査を遂行するにあたって、とりわけ法令遵守という点からすると、必要不可欠な手続きと言える。ただし、申請プロセスの複雑さや現地研究機関との良好な関係性が求められることから、時間と困難が伴う作業と認識されている。したがって、インドネシア政府から外国人研究者としての認可を得たことは、研究の進展と言える。 【現地調査の進展】調査許可を取得したのち、報告者は、西ジャワ州バンドゥン市近郊の村落にて住込み調査を開始した。開始から4ヵ月程度が過ぎた現在、村の歴史や村人の生業、またモスクを中心として行われる宗教行事や町内会が主導する活動に参加することを通じて、スンダ人社会の村落構造や日常生活、および宗教実践などに関する知識を体得することが徐々に可能となってきた。これら調査から得たデータを研究成果として発表するにはもう少し時間を要するが、「村に入り、住民とのラポール関係を構築していくこと」、すなわち、これまで問題なく調査活動を遂行できていることから、調査活動は、おおむね順調に進展している。 【研究成果の発表】昨年度から行ってきた文献研究と現地調査の研究成果を、本年度は論文および国内外の学会にて発表してきた(論文3本と査読中の論文1本、2本の書評、1本の論文翻訳、また国内外の学会・研究会にて合計7回の口頭発表)。 以上、現地調査の遂行と調査データの検討、研究成果の発表、それぞれについて進展がみられることから、研究の達成度としては、おおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行するにあたって、採用3年目(最終年度)となる来年度の研究の推進方策としては、長期現地調査(フィールドワーク)に基づき、以下の2点を検討することとしたい。 【村落における社会構造の変容の検討】報告者の調査村(K村)は、バンドゥン市とレンバン県との境に位置する田舎の村落である。そもそも、K村の住民は、その約90%がスンダ人であり、約60%が同村出身者ないしは近隣村落からの婚入者と言われている。けれども、経済発展と人口流入によってバンドゥン都市圏は拡大傾向にあり、他方でレンバン県一帯のリゾート地化計画が進展するなかで、K村は現在、バンドゥン都市圏の郊外として、同時に、レンバン一帯に広がる観光地の末端として位置付けられつつある。実際、昨今では、都市部からの移住者も多く、村や町内会の行事に関心が低い住民も増えてきたといわれている。そこで、今後もK村で行われる宗教行事や地域の活動を調査対象とし、諸活動の過去と現状、および今後の見通しなどについて主催者や参加者へのインタビューなどを通じて確認していきたい。 【都市部における新たな価値観の受容/創出】ポスト・スハルト時代とされる大凡2000年代頃以降、比較的自由な政治体制の下で、インドネシアでは、都市部の中間層を中心とした大衆による(欧米)近代的な価値観への指向、イスラームの活動の興隆、さらに地域文化や伝統の復興運動がみられた。さらに、そのようなダイナミズムは、安定した経済成長とインフラの整備に支えられることで、大都市に限らず地方都市や田舎にまで浸透し始めている。そこで、先述した新たな運動というものが、都市部においていかに展開されているのか、いかなる目的やビジョンを有しているのかという点について、とりわけスンダ文化の復興運動に与する団体や担い手に着目し調査を進めたい。
|
Research Products
(11 results)