2014 Fiscal Year Annual Research Report
膜結合蛋白質の自己組織化を促進する、生体膜の作用メカニズム解明
Project/Area Number |
14J07513
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 耕路 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | Pore forming toxin / 脂質膜のダイナミクス / 膜蛋白質 / 蛋白質の構造変化 / 脂質膜の流動性 / 糖鎖 / 糖結合蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は生体膜を舞台にした蛋白質の局在・自己組織化に生体膜が与える影響を理解することである。本研究では特に糖脂質がFraCの溶血活性に与える影響に着目する。FraC-糖間相互作用の詳細を明らかにし、糖脂質がFraCに与える効果を解明する。 糖鎖アレイによってFraCと609種の糖鎖との相互作用強度を測定し、FraCと特異的に結合する糖鎖として、GalNAcb1-4GlcNac、(6S)GlcNAcを同定した。FraCと糖との共結晶を作成しX線結晶構造解析を行った。その結果、単糖GlcNAcが結合したFraCの構造を解像度2.0Åで決定した。リポソームとFraCとの相互作用を多糖類コンドロイチン存在下でITCにより測定し、コンドロイチン非存在下で得られたリポソームとFraCとの相互作用の熱力学パラメータと比較した。その結果、糖鎖が競合的にFraCの脂質膜への結合を阻害していることが明らかになった。糖鎖がFraCの溶液中での拡散に及ぼす速度論的影響を観察するために、SPRによりFraCとコンドロイチンとの相互作用を解析した。その結果、FraCとコンドロイチンは解離定数10 μMという弱い相互作用で結合していることが明らかになった。 以上の結果を統合すると、FraCはコンドロイチンに代表される負電荷を帯びた糖鎖に特異的に結合することが明らかになった。そしてFraC―糖鎖間の結合が水溶液中でのFraCの拡散速度を低下させることが示唆された。コンドロイチンは魚類表面の、ぬめりのある保護層の構成主体である。またFraCはイソギンチャクが魚類皮膜に注入する毒素である。FraCがコンドロイチンと相互作用することで、FraCの海中への拡散が阻害され標的細胞膜上で高い局所濃度を保ち、それにより速度論的に小孔形成の効率が向上することが予想される。 またFraCの小孔構造を単離する為の新規精製法を確立した。この方法により蛋白質を単離し、脂質メソフェーズ法によりFraC小孔の蛋白質結晶を取得した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究では、当初の予定通り蛋白質の自己組織化を促進する脂質膜のダイナミクスの一端として、脂質ラフト形成に加え、脂質膜の流動性向上が寄与することを明らかにした。さらに研究の中で、当初期待していなかったFraC小孔構造の結晶構造解析を達成することで、脂質分子がFraCの自己組織化をアセンブリ補因子として促進していることを解明した。これらの結果をまとめた論文を、当該研究員を筆頭著者としてNature Communicationsに発表、当該研究員を第三著者としてJournal of Biological Chemistryに発表した。これに加え、当該研究員はFraCと糖鎖との相互作用に関する研究を期待以上に前進させ糖鎖コンドロイチンがFraCの結合標的であることを明らかにした。FraCと糖類との相互作用はFraCと脂質との相互作用と比較すると弱いことから、FraCと糖との複合体形成は一時的であり、糖鎖はFraCの活性向上に速度論的に寄与していることを提案している。現在はこの研究に関する論文を筆頭著者として提出準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、FraCの活性に与える糖鎖の影響の解明を期待以上に前進させ、現在論文を執筆中である。また、当初期待していなかったFraC小孔構造を決定することで、脂質スフィンゴミエリンがFraCの小孔形成に与える影響を分子レベルで記述することに成功した。平成27年度は、スフィンゴミエリンがFraCの活性向上に与える影響を詳細に解析する。また、FraCの解析をする中で確立した膜蛋白質マニュピュレーション技術を適用し、他の膜孔形成蛋白質の機能、構造についても解析していく。さらに、FraCをモデル蛋白質として、界面活性剤が膜蛋白質の不活性化に及ぼす影響を系統的に解析する。具体的には ・FraC変異体(R39A)の活性を評価し、蛋白質とスフィンゴミエリン間の水素結合の形成が小孔形成に及ぼす影響を調べる。 ・FraC精製手法を応用し、ヒト由来チャネル蛋白質CLIC1, アポトーシス促進因子BAXの小孔単離を目指す。 ・FraC小孔を様々な界面活性剤で処理し、解離した小孔の量、アグリゲーションの量を定量することで、界面活性剤の変性能の強さ及び、膜蛋白質複合体の解離に及ぼす影響の強さをマッピングする。
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Research Products
(6 results)