2015 Fiscal Year Annual Research Report
精子核リモデリングにおけるH3K9脱メチル化酵素 (JMJD1C)の機能解析
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14J07577
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中島 龍介 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 精子形成 / リジン脱メチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
エピゲノム制御の一翼を担うヒストン脱メチル化酵素遺伝子群の中で、内部細胞塊から配偶子形成に至る生殖細胞の分化過程において特徴的な発現変動を示すものとして、H3K9脱メチル化酵素遺伝子Jmjd1Cに着目し、βgeo gene-trap(GT) ES細胞からのJmjd1C GTマウスを解析した。その結果GTホモ型マウスは精子形成不全を示し、そのGT変異精巣では円形精子細胞からの精子完成期に顕著な組織学的異常が見られた。さらに、類似の変異表現型は同族遺伝子のJmjd1Aについても既に報告されH3K9脱メチル化作用が精子核リモデリング遺伝子の発現促進に寄与することが示されていた(Okada et al, Nature, 2007)。以上の知見に基づいて、本研究はこのJmjd1C欠損に見られる異常を解析することによって、クロマチン制御因子JMJD1Cの機能及びその機能関連因子や標的遺伝子を解明し、精子幹細胞および精子核リモデリングに関わるエピゲノム制御ネットワークを究明することを目的とする。 近年、Jmjd1C強制発現細胞の解析によってJMJD1C蛋白にはH3K9脱メチル酵素活性が見られないことが報告され(Brauche et al, PlosOne, 2013)、JMJD1C機能にはヒストン以外の標的因子が存在する可能性が浮上してきた。よって、本年度はこの観点からの解析を加え、より詳細なJmjd1C-GT変異型の異常要因を探る作業を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題が対象とするJmjd1Cは、Rett症候群や自閉症などヒト精神疾患の責任遺伝子である可能性が指摘され、さらにDNA修復異常による発癌機序やヒトES/iPS細胞における多能性維持への関与が次々に報告されている。これに関連して、本研究が着目するJmjd1C-GT変異マウスに表れた精子形成異常においても、本年度の研究成果として、DNA損傷修復因子群との機能的関連から、遺伝子発現制御だけではない多様なJmjd1Cの役割が次第に明らかにされてきた。なお、今年度の具体的な研究成果は以下の通りである。 1. 同調的に精子分化が進行する精子形成第1波におけるJmjd1Cの2つのバリアント(Short/Long Form)の継時的な発現変動をリアルタイムPCR法によって調べた。結果、二者は異なる分化段階で発現し、Short Formは精子幹・精原細胞期に、Long Formは精子細胞期に各々異なる機能を担う可能性を示すとともに、Jmjd1C-GT変異に見られる精子完成期の異常はLong Form JMJD1Cの機能欠損によると推察された。 2. 培養細胞においてJMJD1Cによるリジン脱メチル化を受けることが知られるMDC1とその共役因子であるRNF8について、精巣におけるJMJD1Cとの共役関係を検証した結果、野生型においてはJMJD1CとMDC1が精子細胞核に共局在する様子が観察された一方で、GTホモ型におけるMDC1の精子細胞核への局在は見られず、精子形成過程におけるJMJD1CとMDC1の存在様式には密接な関連性が示された。さらに、GTホモ型精巣ではRNF8の染色性が野生型に比べ減少もしくは消失しており、RNF8についてもJMJD1Cとの関連性が推測された。 3. Jmjd1C変異によってリジンメチル化の変化する蛋白質をイミュノブロット法によって調べた結果、変化の見られた内90kDaの蛋白は免疫沈降法の結果からHSP90αであると予測され、HSP90αがJMJD1Cのリジン脱メチル化標的候補に加えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果からマウス精巣におけるJMJD1Cの脱メチル化標的もしくは連携因子候補と予測されたMDC1, RNF8, HSP90αには興味深い共通項がある。これら三者はJmjd1Cとともに殆どの組織で普遍的な発現性を示すにもかかわらず、そのノックアウトはいずれも精子形成のみに異常に示す点である。特にRNF8については、RNF8によるヒストンH2A/H2Bをユビキチン化に続くヒストンH4K16のアセチル化、ヌクレオソームからのヒストン除去、除去領域へのプロタミン補充というヒストン-プロタミン置換カスケードの上流に位置することが明らかにされている。加えてRNF8は三者の中でもノックアウトの表現型が我々のGTホモ型に酷似しているため、精子完成期の分子ネットワークの中でJmjd1Cと密接に関わっていることが予測される。 以上の考察から、今後はH4K16のアセチル化およびヒストンアセチル化酵素についてJmjd1C変異による発現・局在等の変化やJMJD1Cとの結合性の有無を検証する予定である。
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