2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J07826
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高安 伶奈 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | メタゲノム解析 / 唾液菌叢 / 概日周期 / 安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究で、ヒトやその他動物の糞便サンプルの既存データを使って、16SrRNA系統解析を行い、種個体数分布がべき分布で近似されるようなロングテールな分布になることを確かめていた。またべき分布で近似した場合、ホスト種が同じであれば、菌叢の個体差や状態に寄らず種個体数分布のべき指数が非常に似通った値になることも確認していた。そのような安定的な種個体数分布がどのように生成されるのか、複数種が3次元格子上で隣接する空間にランダムに成長していく数理モデルを構築し、腸内細菌叢が持つ上記の特徴を再現することを確認した。 今年度は新たに、時系列での変動の特徴を抽出するべく、唾液の4時間おきのサンプルを3日間に渡って取り続け、唾液の菌叢に概日リズムのあることを確認した。その変動幅は、平均としては個人差による菌叢の変動より小さいものの、最も菌叢の変化の大きい時間帯同士を比較した場合のUnifrac距離は、個人差を上回ることもあるほどの大きさだった。菌数の絶対量も日内周期しており、朝起床時8:00には、夜20:00の10倍以上の菌が口内に存在する。また個別のtaxaの相対比率の変動について、より詳しく見た結果、門レベルでは、firmicutes門とBacteroidetes門が逆位相の日内変動を示すこと、属レベルにおいては、嫌気、好気性の区別で菌叢全体の約45%の変動のパターンを説明できることを確かめた。すなわち、嫌気的な菌は睡眠時に増殖することが多く、好気的な菌は活動時間帯に増殖する傾向があった。これらの結果は5月にボストンのforsyth研究所で情報交換を行い、その後時差ボケのサンプルの採取や、メタゲノム解析などを引き続き行った。今後は、幼児の概日リズム形成時期の菌叢を調べたり、マウスを使って菌叢の概日リズムと食のリズムの関係性について、さらなるサンプリングを行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ヒト唾液菌叢の時系列データを実験で得て、そのメタゲノム解析を行い、菌叢と遺伝子機能に概日リズムがあることを発見した。また菌叢全体のおよそ半数が帰属する菌種の嫌気、好気性で挙動が分かれることについても明らかにした。これらのまとまった結果については論文執筆中である。また、時系列データの解析結果から、菌叢の持つ安定性について考察し、各菌の相対比率の成長率の分布がべき分布に従うことを確認した。菌叢構造が持つこの特徴の再現を、昨年度作成していた数理モデルの改良によって試み、モデルの抱える問題点や現状について、理論系の研究者が多く集まる会議で討議を行った。 また、GVHD(graft versus host disease, 移植片対宿主病)の腸内細菌叢データを使い、健常な状態での菌叢変動の特徴について、唾液のデータを使って解析するのと同時に、dysbiosis(腸内菌共生バランス失調)を起こした腸内サンプルについての解析を開始し、来年度に向けて、更なる解析パイプラインの構築に邁進している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の唾液菌叢の概日リズムの研究において、嫌気的な菌は睡眠時に増殖することが多く、好気的な菌は活動時間帯に増殖する傾向を発見した。これらが口内の環境に依存するものなのかどうか確証を得るため、今後唾液の酸素濃度や口の開閉をコントロールした状態でのサンプリングを検討している。また、幼児の概日リズム形成時期の菌叢や、マウスを使って菌叢の概日リズムと食のリズムの関係性についても、共同研究によってさらなるサンプリングを行っていく予定である。概日リズムは最大振幅では個人の差を超えることもあるほど大きいことが確認されており、将来的に菌叢構造の改変を目指した投薬などを行うときには、今回発見したような菌叢の概日リズムが、ホストの概日リズムとどのような関係にあるのか知ることが非常に重要になってくると考えられる。 また、今回時系列データや個人の菌叢のデータ間での、各菌の相対比率の成長率の分布がべき分布に従うことを確認し、その傾きによって腸内細菌叢の変動の大きさを定義し、系の安定性の指標にできる可能性を見出した。上記の唾液細菌叢の時系列データを適用すると、冪指数は1.887となり何らかの種の組成比が10倍以上大きく変動する割合は、全変動のうち約1%弱にとどまる。昨年度作成した数理モデルにおいても、相対比率の成長率の分布がべき分布になることを確認したが、その冪指数は0.58であり、変動の幅は実データと比較すると、非常に大きいものとなる。菌叢の安定性について、今回のデータをもとに、数理モデルに還元できるような特徴抽出を行うとともに、dysbiosisを起こすような外部刺激の前後の詳細な時系列データなどを得て、より多角的に菌叢の安定性と脆弱性について、数理モデルで記述することを目指していきたい。
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Research Products
(6 results)