2014 Fiscal Year Annual Research Report
カントにおける「歴史」「統治」「自然」--共和主義と政治改革の文脈で--
Project/Area Number |
14J07918
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
網谷 壮介 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | カント / 統治 / 歴史哲学 / 共和主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、カントの歴史哲学書が市民の政治的啓蒙として意図されていたこと、さらにそこで現れる「自然」概念に注目することで、それが統治批判としても意図されていたことを明らかにした。前者については、とりわけ『世界市民的見地における普遍史の理念』と『啓蒙とはなにか』が連関して読まれるべきであり、そう読解することで、後者で明らかにされた「理性の公共的使用」による啓蒙の促進という理論が、前者のなかで歴史哲学構想として実践されている、ということがわかった。つまり、『普遍史の理念』は、来るべき共和政的体制へ向けて市民自らの思考様式を政治化しようとする、カントの試みであった。他方、同著作は「自然」概念を用いて、共和政・永遠平和へと至る歴史を叙述することで、君主の統治を批判するという機能をも持っている。このことは、18世紀ヨーロッパで広く見られた「統治の自然主義」(フーコー)に通じるものである。そこで、ヒュームとスミスの「自然」概念とカントのそれを比較し、その統治批判としてのパフォーマティブな機能とその射程を明らかにした。ヒューム・スミスが統治の自由主義化を企図したとすれば、カントはそれを超えて統治の共和主義化を企図したと評価できる。 また、本年度はこれに加えて、カントにおける「政治」概念に着目し、「上からの政治改革」がどのように構想されているのかも明らかにした。特に『永遠平和のために』では、政治が「執行する法論」として定義され、それと対比されて「国家怜悧」という概念が批判されているが、後者は当時の国家理性論のキー概念であった。カントは当時のドイツで主流だった国家理性論のイデオロギーを批判し、人民の幸福を目的とする統治から、人民の自由、ひいては共和政国家への改革を目的とする統治へと政治概念を転換させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究課題は、イマヌエル・カントにおける、歴史哲学、「上からの改革」、「下からの共和主義」の3点の連関構造を解明することである。上述のように本年度は、歴史哲学と上からの改革の連関について研究を進めた。比較的順調に研究が進展したが、これらと並行して進めるべきであった共和主義の概念史、フランス革命とカントといったテーマについては研究が遅れている。その理由としては、本年度は3本の論文を執筆するとともに、報告を2回行ったため、その準備にとられた時間が思っていたよりも大きかったということがある。
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Strategy for Future Research Activity |
博士論文執筆のためには、さらにカントにおける「下からの共和主義」というモーメントをいっそう明らかにするべく、以下の課題が残されている。第一に、当時のドイツにおいて「共和主義」がいかに理解されていたのか、カントにおける共和主義をそれとの対比でどのように評価すればいいのか、という点である。とりわけフランス革命において被った共和主義言説の変化を調べる必要がある。第二に、カントは革命ではなく君主の統治によって共和主義への改革がなされると構想していたが、その際に市民による言論活動が、君主にとっての統治改革の要求として機能すると考えていた。言論の自由をめぐる議論は、絶対主義国家であったプロイセンでは喧しく論じられており、そのなかにカントを位置づけ、彼の言論の自由の擁護の議論を歴史的に理解することが求められている。
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Research Products
(5 results)