2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J07923
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上杉 未央 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | フランス文学 / 宣教 / 外交史 / フランス / 宗教文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に資料調査と博士論文執筆に集中した。クローデルが日本大使時代に訪れた九州にて調査を実施し、宣教師の活動に関する資料を閲覧した。これらの調査の成果は現在投稿中の論文に反映させており、来年度、刊行される予定である。 また、フランス、ナントのフランス外務省史料室に赴き、在外公館ごとに分類された史料を閲覧し、先行研究で言及されていない、クローデル自筆の外交史料を発見した。博士論文の第一部「クローデルと宣教師の交流」にこれらの調査の成果を反映させた。 本年度は第一次世界大戦開戦100周年であったため、記念行事の開催や研究書の出版が相次いだ。そこで、「クローデルと戦争」を研究主題とした。第一に、フランス国立図書館、国立史料館にて史料調査を行い、未発表史料を発掘し、先行研究で正確に把握されたことのない開戦初期における外交官クローデルのプロパガンダ活動の実態を明らかにした。次に、プロパガンダ活動と創作活動を結びつける視点を提示すべく、日本フランス語フランス文学会秋季大会において、発表『宣教する「聖人」たちとポール・クローデル ―第一次世界大戦期の詩作品から「繻子の靴」までの聖人像をめぐって』を行った。クローデルが極東を離れた1909年から1921年の間、異教の地にカトリックを根付かせる宣教の主題は一見、影を潜めるように思われるが、第一次世界大戦の元凶を信仰の分裂に見出す作家のプロパガンダ著作物と、文学作品を比較すると、世界を「宣教」する必然性の議論が同時代の戦争と密接に結びつきながら深化をみせている。これはクローデルにおいて「宣教」の主題が一貫して継続していることのあらわれであり、博士論文の射程を極東滞在時期に限定しなかった選択が妥当であることを確認した。 これらの研究活動と並行し、宗教的な文学作品理解を深めるべく、パリカトリック学院神学部の聖書学の授業を受講し、好成績を収めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本フランス語フランス文学会全国大会で口頭発表を行った。投稿済で来年度に発表予定の論文が2本あるほか、口頭発表の許可を得るなど、研究成果の発表準備は順調に進んでいる。 また、国内外で資料調査を積極的に行い、先行研究において未発表の資料を発見し、大きな収穫があった。本年度の研究テーマであった、1.クローデルと宣教師の交流、2.フランスにおける「宣教精神」の高揚とクローデル、の2点についての調査は、ローマにおける調査を残す以外、ほぼ完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は引き続き、パリ第4大学提出予定の博士論文執筆を進め、完成させることを作業の中心とする。 並行して、雑誌論文を執筆し、投稿するほか、研究発表も積極的に行いたい。 また、パリカトリック学院で学んだことをもとに、クローデルの聖書註解のテクストと友人たちとの間で交わされる書簡を主に取り上げ、ヨーロッパの「外部」における異教経験が彼のキリスト教観に与えた影響を精査する(博士論文第三部「クローデルにおける比較宗教観」にあたる)。その上で、ヨーロッパの「外部」、クローデルにとって最後の極東体験にあたる駐日フランス大使時代(1921-1927)とその直後に執筆された戯曲『繻子の靴(1919-1924年執筆)』、『クリストファー・コロンブスの書物(1927年執筆)』を取り上げ、そこであらわされる宣教観に、クローデル自身の宣教師との交流の影響がどのようにあらわれているのか考察する(博士論文第四部「クローデルの文学作品における宣教師の表象」にあたる。)
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Research Products
(2 results)