2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J07949
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平谷 直輝 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | Synaptic Plasticity / Neural decoding |
Outline of Annual Research Achievements |
事前分布学習の研究 脳の感覚野では、感覚器から送られてくるスパイク信号から元の外部刺激を推定する必要がある。そのため、感覚野の神経回路では外部刺激の構造の内部モデルが表現されていると考えられている。一方で、その内部モデルが具体的にどのように表現されているかは依然知られていない。本研究では、外部刺激の性質が頻繁に変化する環境においては、その内部モデル自体の事前分布を利用することでよりロバストな学習・推定が神経回路において可能になるという仮説を提唱し、理論計算およびネットワーク・シミュレーションによりその妥当性、また実際の脳との対応を考察した。特に、シナプス重みだけでなく、シナプス結合自体も可塑性を示す場合に、内部モデルの学習にどのようなメリットがあるかを考察した。 STDP型学習則による推定学習 神経回路では、Spike-timing-dependent plasticity(STDP)と呼ばれる、スパイクの時間間隔に依存する学習則が存在することが知られている。一方で、リカレントな神経回路において、STDP型学習則により何が学習できるかというのは依然分かっていない。特に、リカレントな神経回路では、入力スパイク間の相関の伝播が起こると考えられているが、その伝播がいかにSTDP型の学習に影響を及ぼすか、また、伝播の存在にどのような機能的優位性があるかは、依然理解が進んでいない。そこで、本研究ではフィードバック型の神経回路モデルを例に、解析的および数値的計算により、スパイク相関の伝播のSTDP型学習則への影響を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
事前分布学習の研究では、外部環境が動的に変化する場合、シナプス結合の有無により静的成分を表現し、結合重みで動的成分を表現することで、ロバストな推定が可能となることが分かった。また、特に結合がスパースな場合、シナプス結合で内部モデルを表現することで、シナプス重みで表現する場合よりも、情報処理の不確定性を抑えられることが分かった。さらに、上記の結合・重み構造はHebb型の学習則をシナプス結合と重みとに課すことで、自然に達成されることが示された。これらの研究成果は、北米神経科学学会および Computational and System Neuroscience (Cosyne) 2015で発表し、現在論文投稿中である。 また、STDP型学習則による推定学習については、解析的および数値的計算の結果、ノイズの性質により学習に最適なスパイク相関の構造が異なることが分かり、特に入力スパイク列がクロストーク・ノイズと呼ばれる非ランダムなノイズを持つとき、スパイク相関が緩やかな方が学習に優位であることが明らかになった。また、このときの学習則は、機械学習の分野で用いられるベイジアン独立成分分析の近似的アルゴリズムと対応することが示された。このことは、神経回路における生物的な学習則が、ベイジアンの意味で最適な解を近似的に与えていることを意味し、神経回路における確率的情報処理の学習におけるスパイクの重要性を示唆する。これらの研究成果は、日本神経科学大会および北米神経科学学会で発表し、また理論生物学の分野で最も権威のある雑誌の一つであるPLOS Computational Biologyに受理された。
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Strategy for Future Research Activity |
事前分布学習については現在主にフィードフォワード型の神経回路モデルを考察しているが、今後はリカレントな結合も含んだモデルへの応用を考えている。特に、リカレント回路には互いに高い頻度で結合しているクラスタが多数存在することが、近年実験的研究から明らかになっており、それらのクラスタ構造と確率的な内部モデルとの対応を考察したいと考えている。さらに、応用として大規模神経回路における結合構造の機能的役割へと考察を進める予定である。例えば、海馬と嗅内皮質から構成されるリカレント回路は、記憶の形成に本質的な役割を担っていることが知られているが、その構造と機能との対応は依然明らかでない。この点について、確率的枠組みから考察を行いたいと考えている。 また、スパイク・タイミング依存型の学習則については、シナプス前後のニューロン間の発火タイミングだけでなく、樹状突起上の近接するシナプス前ニューロンの相対的な発火タイミングも学習において重要であることが、近年様々な実験結果から明らかになりつつある。そこで、近接するシナプス間の相互作用を取り込んだ理論モデルを提案し、その相互作用が神経回路形成においてどのような役割を持つかを、理論計算およびシミュレーションを用いて現在考察している。また現在、北海道大学の浅井准教授とともに、神経細胞型素子を利用した、フィードバック型神経回路でのSTDP型学習則の工学的応用に向けた共同研究も進めている。
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Research Products
(7 results)