2015 Fiscal Year Annual Research Report
展示空間における日本表象 -昭和戦前期から戦後復興期まで
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14J07957
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
江口 みなみ 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 国家表象 / 日独美術交流 / 国際情報交換 / ドイツ:アメリカ / 展示デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、昭和戦前期から戦後復興期までを考察対象に、国内外の美術展や博覧会の展示空間に表された国家表象の系譜を捉えることを目的とする。平成27年度は、1930年代後半の海外における日本美術展覧会の展示空間について、第二次大戦後の状況との比較を含めた考察を行った。 研究方法としては、1936年ボストン日本古美術展および1939年伯林日本古美術展に関する調査を中心に、東京文化財研究所や国会図書館において国内調査を行った。また2015年7月から9月までベルリン自由大学東アジア美術史研究科の客員研究員として、現地で調査を行った。国立図書館やアジア美術館の資料室等を利用し、ベルリン東アジア美術館の展示面での変遷に関する資料を収集した。 具体的な成果としては、まず2015年9月に英国日本学会研究協会の年次大会で口頭発表を行った。スコットランド国立美術館学芸員のバックランド氏をリーダーに、セインズブリー研究所のケイ富澤氏、東京国立博物館の鈴木氏とともに「欧米における日本美術の歴史的受容と展示」と題したパネルを組み、筆者はベルリン東アジア美術館の展示空間について国際的な比較を交えながら論じた。また2015年11月に江戸東京博物館で開催された明治美術学会例会で研究発表「国際文化振興会編纂「ボストン日本古美術展覧会報告書」(1937年)に見る展示戦略」を行った。いずれの研究発表においても、第二次大戦による展示空間の物理的な破壊・解体と、その後の復興を視野に入れて論じることで、展示と国家表象の有機的なつながりを強調することができた。 総じて、従来の出品物を重視した展覧会の研究とは異なる視点から「展示」を捉え、その考察を国内外の研究者へ発表することができたと言える。今後、考察対象を戦後へシフトするため、基礎的な情報や先行研究を把握し、人的ネットワークを拡大できたことも重要な成果であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度はドイツと英国で研究交流の機会を得たり、台湾師範大学においてレクチャーを行ったりと、海外の研究者と実りある議論ができた。交流を契機とした調査により、研究の範囲を戦後まで拡げるための足場を作ることができたと言える。またボストン日本古美術展に関する調査では、政治的背景を汲み取りながら論じる方法において、これまでより解像度の高い捉え方ができるようになったと感じている。一方で、こうした成果を日本語での発表と同じように外国語で伝えられる技術を身につける必要がある。英国ロンドンでの学会発表では質疑応答の場面で伝達力の不十分さを感じた。 ボストン日本古美術展の調査を通じて、ボストン美術館日本美術展示室の歴史を概観したが、戦況の変化とともに展示室が閉鎖されたことなど、日米文化交流史の苦々しい部分に触れた。これを日独文化交流史と重ね合わせてみれば、あらためて日本の文化政策や国家表象の潮流を捉え直すことにつながる。これまで日独関係に焦点を絞って考察を進めてきたが、より多角的な分析が可能となった。 また平成26年度から取り組んできた1931年伯林日本画展と1939年伯林日本古美術展の比較分析について、学会誌『美術史』(美術史学会)へ投稿した査読論文が2015年11月に刊行された。国内の美術史研究では最も規模の大きい学会誌に採択されたことで、作品研究が多い美術史学において、「展示」に着目した研究手法を提示することができたと言える。 1939年伯林日本古美術展の研究成果を発表するため、米国アジア研究学会(AASシアトル、2016年3月)に向けてパネルを組み、応募したが不採択となったことは非常に残念であった。しかしメンバーとパネルを練り直し、同学会のアジア大会(AAS-in-ASIA京都、2016年6月)に採択された。パネル審査の戦略を学び、再挑戦できたことは非常に良い経験となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、これまでの1930年代海外日本古美術展に関する研究を基点として、考察の軸を戦後へと移し、成果発表へとつなげる。具体的には、まず米国ボストン美術館で日本美術資料調査担当者の協力を得て、ボストン日本古美術展に関する追加調査を行う。同館で長年学芸員を務めた富田幸次郎に関連する貴重資料を調査する。この成果を論文にまとめ明治美術学会の学会誌『近代画説』へ投稿する(2016年7月)。また2016年6月に同志社大学で開催される米国アジア研究学会アジア大会において、パネル「Empires in Motion: Japan and 1930s Art Exhibitions on the Global Stage」に参加し、「Display of Partnership: Installation Strategies of the Old Japanese Art Exhibition in Berlin, 1939」と題して伯林日本古美術展に関する研究成果を口頭発表する。同大会には美術史研究に留まらない多様な研究者が集まるため、活発な議論や情報交換が期待される。 また戦後の日本美術展二件について調査を進める。まず1953年の米国日本美術展、そして1958年ブリュッセル万博における日本館の展示について、国家表象の場としての展示空間の分析を行う。調査は国会図書館、東京文化財研究所、国立東京博物館、矢代幸雄文庫(神奈川県立近代美術館)、国際交流国際文化振興会アーカイヴ(国際交流基金)において行う。昭和戦前期から戦後復興期までの展示空間にみる国家表象の変遷について、これまでの研究をふまえた総括的な考察へとまとめ、美学会全国大会(同志社大学、2016年10月)の口頭発表において公開する。
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Research Products
(2 results)