2014 Fiscal Year Annual Research Report
「在日コリアン文学」の始源としての金達寿文学─その総合的研究
Project/Area Number |
14J07974
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
廣瀬 陽一 大阪府立大学, 人間社会学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 金達寿 / 在日朝鮮人文学 / 近代日韓関係 / 帰化人 / 渡来人 / 転向 / 自然主義リアリズム / 社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
①金達寿の文学的闘争への研究について。申請者は金達寿を自然主義リアリズムの作家と見なす通念や彼の文学活動と古代史研究とを切り離して論じてきた従来の研究を批判するため、彼の初期文学活動と、彼の最期の小説となった『行基の時代』に焦点をあてた論文を発表した。また博士論文をまとめ、『金達寿小説集』(講談社)も出版した。これらにより、金達寿を単なる文学者ではなく知識人ととらえる視座を確立させることができ、彼の多様な知的活動を文学活動と関連づけて論じることが可能になった。 ②金達寿の伝記の執筆と資料収集・インタビュー調査について。伝記は文芸誌『イリプス』に毎回連載できており、順調である。また資料収集も、古書店や図書館にこまめに通って生原稿や資料を収集できたほか、韓国に2度旅行し、彼の故郷や彼がソウルで暮らした場所など、縁の地を特定することができた。他方、インタビューは、予想より協力者が少なく、会えても名前を出したり論文に書かないならという条件の方が多かった。(在日)コリアンや北朝鮮バッシングに利用されることへの警戒感や、総連との関係を恐れていることが察せられた。そこで私は博士論文をまとめ、『金達寿小説集』を出版するなどで彼らの信用を得ることに尽力し、その結果、日本国内や韓国に個人的に協力してくださる方が増えてきた。この点で、インタビューについては当初の研究実施計画より遅れているが、条件は整いつつあると考えられる。 ③学会への参加と金達寿や在日コリアン文学・社会の現状に関する情報収集について。国際高麗学会・早稲田大学韓国学研究所の研究会を始め、在日コリアンに関する研究会に積極的に参加し、諸先生方から金達寿が生きていた時代状況や韓国や在日コリアンの社会や文化を教わった。また中国朝鮮族を研究している先生を通して、金達寿文学を日本と韓国だけでなく、中国朝鮮族からもとらえる視点を学んだ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、申請者が「朴達の裁判」を通して明らかにした金達寿の可能性を、(1)彼の文学活動全体へ拡大、(2)「政治と文学」問題への拡大、(3)資料収集と伝記的事実の調査の3項目であった。(1)(2)については学会論文に1本・学内雑誌に1本の論文を発表し、さらに博士論文という形で成果をいったんまとめることができた。(3)については、予想よりインタビュー協力者が少なかった点では難航したが、文献収集と伝記的事実の調査は順調に進み、「金達寿伝」(『イリプス』に連載)として成果を提出できた。また国際高麗学会や早稲田大学韓国学研究所などの研究会に参加しすることで、在日コリアン文学のみならず社会や歴史などについて、大幅に知見を広げることができた。さらに『金達寿小説集』(講談社文芸文庫)の刊行など、予想外の成果を挙げることもできた。以上の理由から、本年度は当初の計画以上に進展したと自己判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
金達寿は一般に自然主義リアリズム文学の系譜に位置づけられるが、申請者は金達寿が書いた文献や関係資料に基づき、この通念が誤りであり、実際には彼が自然主義リアリズムの限界を克服すべく文学活動を展開したことを明らかにした。しかし金達寿文学を総合的にとらえるためには、彼の後半生の主要が業績である古代史研究まで視野に入れなければ、『行基の時代』など彼の後期の文学活動を理解できないことがわかった。申請者はすでに彼の古代史研究について論文を発表しているが、今年度、さらに研究範囲を深く広く展開することで、金達寿文学の総合的な把握に努めていく。また26年度は、想定よりインタビュー協力を得られなかったという課題が残ったが、学会や研究会などへの参加や博士論文の完成、さらに『金達寿小説集』の刊行によって、(在日)コリアンへのバッシングに利用されるのではないかと懸念していた方々の中に、徐々に協力を申し出てくださる方が出てきた。そこで今年度は、これらの著作や人脈を積極的に活用し、インタビューを申し込むなどして研究の充実を図っていく。
|
Research Products
(10 results)