2015 Fiscal Year Annual Research Report
ジル・ドゥルーズの哲学における学習概念の教育思想史的研究
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14J07997
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲田 祐貴 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 教育哲学 / 教育思想史 / 事例研究 / 文学教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)『差異と反復』を読解し、シーニュ概念やニーチェ主義の位置づけについて整理した。これは、日本の教育哲学において一定程度知られているバタイユの変化論をもとにした教育論を精緻化する意味を持つ。矢野智司らが提示しているバタイユの思考をもとにした教育論は、純粋贈与という絶対的な出来事や、ニーチェ主義的な一種の狂気をもたらす変化を、近代教育が是としてきた発達概念の相対化のために肯定する。しかし、この教育論は、絶対的な変化を肯定しはするものの、いかにしてその変化にいたるのか、そこに至るまでにどのようなプロセスを経るのか、といった方途や過程を理論化し記述するには至っていなかった。本研究では、ドゥルーズのシーニュ概念やニーチェ主義の微妙な評価が、この理論化の一助となるのではないかという仮定のもとドゥルーズのテクストの再構成を行った。
(2)ドゥルーズとガタリの哲学を解釈し、彼らの理論をミクロな視点から教育学に導入しようと試みた。これまで彼らの哲学は、教育の存在論的な精緻化や発生原因についての研究に援用されることはあっても、実際の授業や学校空間をみる観点として用いられることはほとんどなかった。本研究では、彼らの哲学の中心概念である「アジャンスマン」概念に着目しつつ、図画工作の参与観察でみられた子どもの創作活動の意義や奥深さについて言及した。
(3)ドゥルーズの文学論を文学教育論に再構成することを試みた。ロラン・バルトを批判しつつ文学教育の基礎づけを行っている田中実の理論と、同じくバルトを批判しつつ、独自の文学論を展開したドゥルーズを比較・検討した。この作業と並行しつつ、横光利一『蠅』を読む授業実践を参与観察し、田中理論とドゥルーズの理論でもって分析を行った。子どもたちがクラスメイトや教師との対話を重ねつつ、自らの読みを深めていく有り様を記述することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展していると考える。 とりわけ、哲学研究をふまえつつ事例研究に着手できたことが大きな進展であると言える。というのも、学習概念の研究基盤をより学際的な形で強固にできたと思われるからである。 本研究で軸となる学習概念は教育学においてはプラトンの想起説に始まるが、20世紀以降その定義付けや分析は心理学や認知科学的知見に負うところが大きい(E. L. Thorndike, B. F. Skinner, N. Chomsky等)。本研究はドゥルーズの哲学を手がかりに教育思想史における学習概念の変遷を明らかにすることはもちろんのこと、事例研究に応用することで、心理学や認知科学の知見との応答を行っている。この意味で本研究は学習概念研究の総体に哲学的・思想史的知見でもって貢献していると言える。 十分に満足に行えなかった課題としては、翻訳作業(重要なドゥルーズ研究の二次文献であるものの未邦訳であるCharbonnier(2009)など)と資料蒐集であり、来年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の項目について研究する予定である。 ・主知主義の調査としてライプニッツとスピノザの哲学を分析する。具体的には彼の認識論(Nouveaux essais sur l’entendement humain, 1765)を中心に読解し彼の自由意志批判について整理する。さらにドゥルーズのライプニッツ論(Le Pli: Leibnitz et le Baroque, 1988)との比較検討を行う。また、スピノザの学習論(Tractatus de Intellectus Emendatione, 1662)を読解し、彼が学習における身体の役割をどのように考えていたかを抽出したのち、それが主著(Ethica Ordine Geometrico Demonstrata, 1677)においてどのように体系化されたのかを追跡する。さらにドゥルーズのスピノザ論(Spinoza et le probleme de l’expression, 1968, Spinoza, philosophie pratique, 1970)との比較検討を行う。 ・認識論的切断の調査としてバシュラールとアルチュセールの哲学を分析する。彼らの主著(それぞれLa Formation de l’esprit scientifique, 1938とPour Marx, 1965)を中心に読解し、認識論的切断が発生する条件についてまとめ、ドゥルーズがガタリと行った資本主義批判論と比較検討する。 ・これまでの三年間の成果の取りまとめとして、学習概念の観念史を綜合し、ドゥルーズの哲学における学習概念の思想的展開の把握と教育学的意味を提示しうる博士論文を執筆する。それを東京大学に提出する。
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Research Products
(2 results)