2015 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症スペクトラム障害における社会的相互作用の神経基盤
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14J08054
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小倉 有紀子 北海道大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 社会的促進 / 社会採餌 / 感覚プロファイル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、定型発達と自閉スペクトラム症(ASD)との比較の観点から、他者がいると意思決定及び行動がどのように変わるか検討することである。昨年度の行動課題ではデータが安定しなかったため、今年度は他者の影響に対してより鋭敏な行動課題を改めて開発・確立した。 行動生態学の考え方に基づき、動物が餌場(パッチ)への滞在と離脱とを繰り返し、時間当たりの餌(報酬)量を最大化しようとする(Charnov 1974)状況を再現した。被験者はコンピューターゲーム内で餌パッチを探し、見つければ報酬を得た。報酬加算のペースは次第に鈍るので、「今のパッチに留まるか、次のパッチを探すか」の判断が求められた。同一被験者において、単独時とペア(2名で実験を行う)時とでパッチ滞在時間を比較した。行動生態学的には(Giraldeau & Caraco 2000)、ペア時は単独時に比べて滞在時間が短くなると予測された。 被験者50名(男性24名、女性26名)において、ペア時は単独時に比べて有意に滞在時間が短かった。他方で、パッチをめぐる競争があるかないか、他者が自分のパッチを見つけられるか否か、といった他者との関係の違いは影響していなかった。滞在時間の短縮は行動生態学的背景よりもむしろ、non-specificな”社会的促進”(Allport 1924, Zajonc 1965)によるものと考えられる。 滞在時間短縮の大きさ(=社会的促進の強さ)と、ASDに関連した質問紙の点数とに、有意な相関は認められなかった。他方、感覚偏奇のアセスメントツールである青年・成人感覚プロファイル(Brown & Dunn 2002; 辻井(監修)・萩原ら(作成) 2015)の「聴覚・低登録」点数が、1回目単独時のパッチ滞在時間と負に相関していた。パッチ滞在時間に関する意思決定は、感覚受容の様式から影響を受けているかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に行った運動ベースの行動課題では安定したデータを得られず、新たに「パッチ採餌課題」を確立、実施する必要が生じた。定型発達者については十分な被験者数を確保し、予定の実験を終えることができた。行動データからはおおむね仮説通りの結論が得られ、昨年度は未実施であった質問紙(感覚プロファイルなど)調査も実施した。臨床患者を被験者とした行動実験および質問紙調査、および本行動課題をfMRIと組み合わせて実施するには至っておらず、今後進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
「パッチ採餌課題」の被験者を臨床患者(主にASDと診断されている人)に広げるとともに、課題を行っている間の脳活動をfMRIにて記録し、関連脳部位を同定する。実験系の変更により、当初よりもMRI装置内で行いやすい課題となったため、比較的早い段階で撮像を始められると考えている。
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Research Products
(5 results)